「進歩と改革」No.719号    --2011年11月号--


■主張 脱原発、9・19集会の成功を1000万人署名へ


  
  脱原発運動史上最大の6万人が大結集

 9月19日(祝)、快晴の東京・明治公園に「さようなら原発、いのちが大事!」「子ともたちを守ろう!」「海・空・大地を守ろう!」とシュプレヒコールが響き渡った。福島第一原発の事故を受け、作家の大江健三郎さん、鎌田慧さん、瀬戸内寂聴さんらが呼びかけた「1000万人アクション」の集会である。結集したのは6万人で、日本の脱原発運動でこれだけ多くの人々が集まったのは初めてのことであった。最寄りのJR千駄ケ谷駅構内は参加者で混乱し、電車の停車が制限され、公園内に入れなかった参加者が千駄ケ谷駅、信濃町駅までつながった。それは、以前のイラク反戦集会をもはるかに上回る参加者であった。

 集会後のデモ行進も壮観であった。横断幕をもつ呼びかけ人に続き、デモ隊の先頭に立ったのは1000人以上が上京した福島からの部隊であった。「怒 福島隊」と書かれた「のぼり旗」が青空にはためく。「怒 浜通り隊」「怒 中通り隊」が行く。「怒 会津隊」もある。母親と連れ立った男の子の手には「ぼくはげんぱつじこのまえのふくしまにかえりたい」とのプラカードがしっかりと握られていた。「ええじゃないか、ええじゃないか、ええじゃないか、原発なくてもええじゃないか」との歌もにぎやかに響いた。デモ隊の最後が明治公園を出発できたのは、集会が終了して2時間半後のことである。この日、ベビーカーを押しながらの若い夫婦や、また老夫婦の姿も目立ったが、このデモを『朝日新聞』(9月25日)は、「『私はこういう社会に生きたい』という主語のはっきりした言葉が路上にあふれていた」と報道した。HPへのアクセス数も7月には月7万件だったものが、9月には50万件を突破。集会当日一日でも10万を超えたという。


「運動の結節点であり出発点」と鎌田慧さん

 集会での発言を紹介しておこう。

 最初にあいさつに立ったルポライターの鎌田慧さんは、「この集会はこれまでの運動の結節点であり、これからの出発点だ」とした上で、「8割が原発はいらないと言っているのに、再開しようとしているのは人民への敵対行為だ」と政府の動きを批判。「核と人類は共存できないことを訴え、1000万人署名を達成しよう」と呼びかけた。

 大江健三郎さんは「原発は荒廃と犠牲をともなう」とし、「イタリアは国民投票で脱原発を明らかにした。日本ではこれからも原発事故を恐れなくてはならない。私たちは、政治家や経団連に思い知らせるためには、集会やデモしかない。まず、それをしっかりやろう」と訴えた。

 経済評論家の内橋克人さんは、地下原発など「原発の新たな安全神話」をつくり、核武装が可能な潜在力を持とうとする動きに警鐘を鳴らし、「原子力エネルギーではなく、いのちのエネルギーが輝く国にしよう。今日はその第一歩を踏み出す日にしよう」と再生可能な自然エネルギー推進を提唱した。

 骨折で療養中の作家の澤地久枝さんも立ち、「今日は何としても来たかった。広島・長崎の原爆を体験した日本は原発を持ってはいけないはずだった」と述べながら、「歴代の政権や電力会社の責任を明らかにさせて、市民の運動による世直しに希望をつないで生きたい。その人間の砦を築いていこう」とアピールした。

 環境団体のFoEドイツ代表でミュンヘン大学教授のフーベルト・ヴァイガーさんは、福島原発事故を受け、ドイツで2022年までに原発の全廃を決めた動きを報告し、「脱原発は出来るか出来ないかではなく、政治的にやるかやらないかの問題だ。国際的な連携を強めて核のない社会を実現しよう」と呼びかけた。

 俳優の山本太郎さんも駆けつけ、「3月11日以来、生き延びたいという気持ちが強くなった。そのためには原発を全て止めるしかない」とエールを送った。


「『東北の鬼』になって立ち上がる」と福島からアピール

 最後に福島からの参加者を代表し「ハイロアクション福島原発」の武藤類子さんが立ち、これまでの支援に感謝を述べた後、「福島の美しい風景に放射能が降り注いで、不安の中で、逃げるか逃げないか、食べるか食べないかをめぐり、人とのつながりが引き裂かれてしまった」と、涙をこらえながら、この半年を振り返った。そして、まだ原発を推進する動きに対し「バカにするな! いま私たちは静かに怒りを燃やす『東北の鬼』になって、悲しみの中から立ち上がっている」と憤怒をこめ、最後に「どうか私たちとつながり続けてほしい、忘れないでほしい。一人ひとり考え、決断し、行動し、横につながっていこう」と力を込めて訴えた。満場の拍手が止まなかった。

 集会後、実行委員会事務局には、署名と一緒に次のようなメツセージが届いたという。「集会に参加できずに心配だけしていた本日、6万人の集会のニュースに思わずバンザイと心で叫んでおりました。思いはつながると強い気持ちになっております」「集会に参加しました。より良い暮らしを送るために、脱原発は実現してほしい絶対項目と思います。アクションを公の場で起こせたことは素晴らしい成果と思いました。これからも頑張ってください。支持します」「集会はすごかったですね。あんなに明治公園に人が集まったのは初めて見ました。みんな本気ですネ」(いずれも女性)。9・19集会の大成功を1000万人署名へと生かしていかねばならない。


野田政権の原発再稼動を阻止しよう!

 この集会を『東京新聞』や『毎日新聞』は大きく取り上げたが、『読売新聞』」は38面にわずか2段見出し、『日経新聞』に至っては一段見出しで報道した。これら新聞社をはじめ、いま原発再稼動へむけた世論誘導が強まっている。9月22日には、野田首相が国連本部で開かれた原子力安全に関する首脳会議の演説で「原子炉の冷温停止状態も予定を早めて年内を目処に達成すべく全力を挙げている」としつつ、「日本は原子力発電の安全性を世界最高水準に高める」「日本は原子力利用を模索する国々の関心に応える」と原発推進の姿勢を露骨に表明した。めざされているのは、原発再稼動と輸出である。26日の衆院予算委員会では、民主党の前原誠司政調会長が、停止中の原発について「年内に再稼動させるという意思をしっかり持っていただきたい」と政府に強く迫った。いま菅前政権の「脱原発依存」路線はぼろ雑巾のように捨て去られ、「原発推進」路線へカジが切られようとしている。これを阻止するのは市民・労働者の運動による以外にない。1000万人署名のもつ意味は重い。