「進歩と改革」No.712号    --2011年4月号--


■主張 統一自治体選挙で、地域に福祉再建・社会民主主義の力を広げよう!


  
 統一自治体選の前半戦である北海道・東京・神奈川・福岡など13都道県知事選と大阪府など44道府県議選、および札幌・広島など5政令市の市長選と市議選は、4月10日に投票される。続く後半戦の市区町村の首長、議員の投票は4月24日である。「平成の大合併」もあり、前回2007年の統一選挙率は過去最低を更新したが、今回はさらに0・79ポイント下回り28・99%になるという。30%を割り、果たして統一自治体選挙と言えるのかどうか疑問はあるが、しかし、 民主党政権に変わって初の統一自治体選であり、現在の菅政権への信任投票の意味を持つ重要な選挙であることは間違いない。


統一自治体選を犠牲にした菅政権の延命策

 この統一自治体選をとりまく情勢について考えて見たい。第一は、やはり信任を受ける菅政権と民主党をめぐる状況であり、社民党との予算修正協議についてである。1月24日、第177回通常国会が開会した。菅政権にとって、通常国会の最大の課題は、新年度政府予算案と関連法案の年度内成立である。菅首相は施政方針演説でも、「今度こそ熟議の国会を」と与野党協議を呼び掛けた。しかし、自民党は「菅内閣を早期の衆院解散・総選挙に追い込む」と強硬姿勢を崩していない。連携相手として期待した公明党も、統一自治体選勝利のためにも、人気低落の菅政権を相手にせず、予算案、関連法案である財政運営のための公債特例法案(赤字国債法案)、子ども手当法案に反対することを正式に決定した。これで、予算案、対立する関連法案は、参議院で否決されることとなる。

 参議院が予算案を否決しても、衆議院で議決されれば、30日後には自動的に成立する。年度内成立は確実である。しかし、関連法案はそうは行かない。衆議院での3分の2による再議決が必要である。そのため社民党との予算修正協議が開始されたが、政府・民主党は、社民党の法人税5%減税・沖縄の基地移設関連予算計上反対など社民党の要求に応える姿勢を示さなかった。社民党が予算修正協議に入ったことは、社会民主主義政党としての対応として当然であるが、ことは日本財界と米国に関わることである。対米追随・財界依存を強める菅内閣には到底、飲める要求ではなかったのであろう。社民党は予算案と赤字国債法案などに反対することを決定した。

 菅政権が社民党の修正要求に応えなかった今一つの理由は、予算案とその執行を裏づける赤字国債法案との「分離処理」に舵を切ったからである。菅政権は、通常なら行われる両案の「一括採決」を諦め、予算案だけを先行採決する道を選んだ。この間に指摘されてきたのは、赤字国債法案が成立しなければ、予算は執行できず、ただちに菅内閣の退陣に直結するということである。しかし、予算案では20兆円の財務省証券が発行でき、これで第一4半期の財政運営をしのぎ、統一自治体選後の成立をめざすのだと報道されている。これでは3分の2を確保するため社民党の力を借りる必要はない。まさに危機の先送りであり、成功する保証もない。民主党内の造反が表面化したが、この統一自治体選を犠牲にしての政権延命策は、さらに党内分岐を深めるであろう。


トリプル選挙に圧勝した河村「減税日本」の主張

 第二は、2月6日に行われた名古屋市長選、愛知県知事選、そして名古屋市議会解散の賛否を問う、いわゆるトリプル選挙の結果である。この選挙では、ともに減税を主張する河村たかし氏と大村秀章氏が圧勝し、名古屋市議会解散も賛成多数を得た。市議選は、3月13日に投開票されるが、河村氏が率いる地域政党「減税日本」は、定数七五名の過半数を超える41名の候補を擁立するという。東京にも、推薦候補を擁立する。

 河村氏の主張は、市民税10%減税の恒久化である。10%の一律減税を実施すれば、多額の納税者である金持ちほど得をする。そして、減税でめざされているのは、税収が少なくなることをバネにした行政改革の推進であり、企業や高額所得者の名古屋「移住」である(結果としての増収)。河村氏は、減税を実現した後に、「800万くらいの予算をつけてよ、東京・新橋のSL広場とかにいってよ、鎧でも被ってカラオケでも歌ってだな、『商売やるなら市民税の安い名古屋に来てちょうよ』と言ってキャンペーンをやるわけだ。ふざけとるわけじゃにゃあよ」(『名古屋発どえりゃ革命!』ベスト新書)と、語り口は面白いがふざけたことを書いている。これらに示されているのは金持ち優遇政策であり、新自由主義政策である。レーガン改革によく似たものである。

 本誌の昨年8月号に、柴山健太郎氏からドイツ西部の州議選を分析していただいた。そこでは「減税政策を実施すれば地方自治体の税収が減る」という声が高まり、減税を実施してきたメルケル政権内自由民主党(FDP)への批判が強まっていることが紹介されている。しかし、名古屋では同じことが行われているにも関わらず、河村氏への支持が集まっている。減税と並ぶ議員報酬半減という主張が共感を得ているのであろう。しかし、ことは簡単ではない。河村氏は、議員報酬半減策の狙いは「議員の職業化の防止」にあり、「職業議員の最大の欠陥は、民主主義の芽を潰すこと」であると言う。代わって提唱されるのがボランティア議員である。確かに、議員のボランティア化は経費削減には役立とうが、民主主義を真に育てるものなのか。これはやはりデマゴギーの類である。もちろん、地方議会も、片山善博元鳥取県知事(現総務相)が「八百長議会」と表現したように非公開性、事前の根回しと談合など問題は多い。地方議会の改革の怠りが、デマゴギー政治を跋扈させているとも言える。首長と議会と市民との緊張ある関係で、地方議会を改革することは重要な課題となっている。


「刑務所が福祉の受け皿」という荒廃の中で

 いまの自治体に求められるのは、生活・福祉の再建である。『北海道新聞』(2月19日、夕刊)が「寄る辺ない社会的弱者―刑務所が最後の受け皿」と題した社会学者・芹沢一也氏の論稿を掲載している。そこには、「長引く経済不況によってセーフティネットが崩壊する中で、社会的弱者たちがはじきだされる。その結果が、『年寄りと病人と外国人ばかり』という刑務所の状況なのだ。福祉が行き届かず、軽微な犯罪に及んだ知的障害者たちが、日々、刑務所に送られている。あるいは社会に居場所を失った高齢者たちが、たとえばコンビニでのおにぎりの万引で刑務所に収容されている。それは刑務所が福祉の受け皿となっている、日本社会の荒廃した姿だ」とある。悲惨な福祉の現状である。荒廃した日本を、地域から変えて行かねばならない。社民党は、弱い人びとに寄り添い、地域に福祉を再建し、社民主義の力を築くため、統一自治体選を頑張って欲しい。