「進歩と改革」No.710号    --2011年2月号--


■主張 政権交代の意義は何処へ―2011年の日本政治と民主党


  
菅政権のリベラル性が問われた「たちあがれ日本」との連立工作

 自公政権からの転換をはたした鳩山連立政権から1年3カ月が経過した。沖縄・普天間基地の辺野古移転、政治とカネ問題で国民的批判をうけた鳩山首相が退陣し、菅政権に代わってからは7カ月である。この間、民主党政治の混迷は甚だしい。菅政権下では、尖閣諸島での中国漁船と海上保安庁巡視船との衝突事件で、対中国強硬の稚拙な外交政策をとり日中関係を緊張に導くこととなった。昨年の第176回臨時国会では、政権担当能力の欠如を露呈し、参議院で仙谷官房長官、馬淵国交相の問責決議が可決されるに至った。昨年七月の参院選で敗北し、衆参ねじれ国会に直面した菅政権が打ち出したのが「熟議の国会」である。政権の統治能力の欠如を克服するために打ち出された「熟議民主主義」「熟議の国会」の下で、より一層統治能力を失墜させたのは、皮肉なことという以外にない。菅政権の混迷を受け、2011年の日本の政治は、どのように展開するのであろうか。ここで何よりも問われているのは政権交代の意義である。

 政権交代の意義を改めて疑問視させたのが、昨年末に表面化し、結局は失敗した「たちあがれ日本」との連立工作であった。消費税増税論者の菅首相は、これまた消費税増税論者である与謝野馨氏との連携を元に、たちあがれ日本を政権に取り込むため、代表である平沼赳夫衆院議員に拉致問題担当相を打診したと言う。すでに多く指摘されているように立ちあがれ日本の結党趣旨の第一は「打倒民主党」であり、綱領の第一に謳われているのは「自主憲法制定」である。そして平沼氏は対朝鮮強硬派の拉致議連の会長である。平沼氏は昨年八月、自らのホームページで次ぎのように発言している。「日本が韓国を併合して百周年に当たるから今の菅政権がかつての村山談話、あるいは河野談話と同じような趣旨で日本が侵略したという形でお詫び書を出そうじゃないかという動きを非常に危惧しています。日本が韓国を併合したと巷間言われていますが、歴史を紐解いてみれば、両国が納得して行ったことで、日本が一方的に併合したということは客観的にみて間違いだと思っている」。こうした村山談話、菅談話さえも否定するほど歴史認識に欠けた右翼政治家を閣内に招くということ自体が、菅政権の理念の喪失・無定見さを示している。ここには、単に政権維持にむけた多数派工作だけでなく、尖閣問題で顕在化した保守・右派の批判を平沼起用でかわそうとする狙いがあるのではないか。これは個別政策の是非を超えて市民派・菅首相とその政権のリベラル性を根底から問う事態であった。


民主党は「国民生活が第一」「沖縄米軍基地の負担軽減」の立場に戻れ

 民主党に政権を託した有権者の期待は「国民生活が第一」との主張であり、「沖縄米軍基地の負担軽減」「コンクリートから人へ」の政策転換であった。しかし、それらを置き去りにして、何でもありの政権維持策に突っ走っているのが菅政権の現状である。

 菅政権には、ねじれ国会への対応と合わせ、民主党内のねじれへの対応も突きつけられている。具体的には、小沢氏の政治倫理審査会への出席問題である。小沢氏の政倫審出席は、政治とカネをめぐる国民の不信に応えるためにも、当然のことである。しかし、菅政権と民主党は、先の臨時国会開会中には小沢氏の政倫審出席に熱心ではなかった。それが一転、小沢氏への離党勧告の可能性までが報じられるほど強硬姿勢をとることとなった。その背景には、新聞各紙の調査で20数%にまで下落した内閣支持率の回復策、小沢排除を意図する米国の圧力説、衆参ねじれを解消するための公明党抱き込み説などが指摘されている。そのいずれもが説得力ある話である。菅首相と小沢氏の間では、政倫審へ「出れ」「出ない」と激しい議論が行われ、結局は小沢氏が政倫審への出席に応じることとなったが、それは菅政権の標榜する熟議民主主義とかけ離れた闘技の様相を呈するものであった。

 一方の小沢氏は、菅政権の国会運営を批判している。政倫審への出席も「円滑な国会審議のため」としている。その通常国会は一月下旬の召集が見込まれているが、自民党など野党は、問責決議をうけた仙谷・馬淵氏の辞任を通常国会召集の条件としている。通常国会召集と公明党の取り込みのためには、小沢氏の国会招致と合わせ、内閣改造は避けることができないであろう。通常国会をめぐっては、小沢氏や野党の動向、新年度予算関連法案の成否が注目され、解散・総選挙の可能性を含めて不透明である。民主・自民の大連立さえ指摘される状況もある。その中で、いま問われることは、菅政権が鳩山連立政権発足時に謳われた「国民生活が第一」「沖縄米軍基地の負担軽減」の政策姿勢に立ち戻ることにある。民主党に問われているのは、政権交代に期待をした国民の声を政策として受け止めることであり、それなしに政権交代の意義はないし、またそれが最良の政権維持策であろう。


中国脅威=日米同盟強化論に対抗し平和憲法を生かす年に

 菅政権の政策的特徴は、「国民の生活が第一」路線の修正=日本経団連をはじめ財界主導政治への妥協であり、鳩山内閣が打ち出した「東アジア共同体」からの乖離=「日米同盟」の重視であり、総じて自民党流「現実政治」への後退である。昨年12月17日には、新防衛計画大綱が閣議決定された。菅首相と福島社民党党首との会談での社民党の要求を受入れて、武器輸出三原則の見直しは断念されたが、新大綱は中国脅威論を打ち出し、南西諸島への防衛強化を打ち出すものとなった。これに軌を合わせて、新聞各紙も中国脅威論を煽っている。

 自民党も同様である。自民党の機関紙『自由民主』の新年号は、総裁の谷垣禎一氏と外交評論家の岡本行夫氏の対談が掲載されているが、そこで岡本氏は次ぎのように述べている。「(北朝鮮の)今度の砲撃事件は米国を二カ国間交渉に引っぱり出すというより、金正日総書記が息子の金正恩にやらせた『度胸試し』だったと思います。・・・・これは非常に危険なことです」「もっと危ないのが膨張する中国海洋戦略です。・・・・そういう意味からも日米同盟は重要です。もし沖縄から米海兵隊が引き、抑止力に穴があけば、日本の周囲を中国海軍が圧する状況となり、戦後最大の危機になります」。この岡本氏に答える谷垣総裁の発言には、日中友好という言葉もなければ、戦略的互恵関係の構築をめざすとの言葉もない。日米同盟の強化・深化で民主・自民の二大政党が共通している。 新しい年の安保外交政策をめぐっては、中国脅威論=日米同盟強化論への平和憲法の対抗力が問われてくるであろう。今こそ日本国憲法の理念を生かした東アジア平和外交の展開が求められている。そのために労働者・市民の声と運動と構想力を強めたい。まずは春闘と統一自治体選の勝利である。(1月3日)