「進歩と改革」No.709号    --2011年1月号--


■主張 朝鮮半島の戦争防止・緊張緩和へ六者協議開催を


  
延坪島で起きた武力衝突

 11月23日午後、韓国が黄海上の南北軍事境界線と定める北方限界線(NLL)の南約三キロにあり、韓国が実効支配する延坪島(ヨンピョンド)および周辺海域へ、朝鮮民主主義人民共和国(朝鮮)から砲撃が行われるという深刻な事態が発生した。朝鮮側から延坪島に向け80発、海域に90発が砲撃されたとされ、延坪島の韓国軍兵士2名、韓国軍官舎の建設に従事していた労働者2名の計4名が死亡した。韓国側からも80発が朝鮮側へ砲撃されたという。新聞各紙は「北朝鮮、韓国に砲撃」(朝日新聞)、「北朝鮮が砲撃、韓国応戦」(毎日新聞)、「北朝鮮、韓国を砲撃」(読売新聞)、「北、韓国を砲撃」(産経新聞)と大々的に報道した。

 延坪島は、朝鮮の甕津半島の南12キロに位置している。中国漁船衝突事件があった尖閣諸島の魚釣島が宮古島・台湾からそれぞれ170キロであるから、これに比べてもまさに目の前である。朝鮮戦争の休戦協定では海上の南北境界線は定められていない。NLLは、休戦協定後に在韓国連軍(米軍)が独自に黄海上に設定したもので、朝鮮との話し合いを持たずに設定されたものであった。そのため、朝鮮は一方的なものとして認めておらず、NLLの再設定を韓国側に求め、1991年に締結された南北基本合意書では、「南と北の海上不可侵境界線については、今後継続して協議する」とされた経緯もある。しかし、朝鮮は、99年にNLLとは別の「海上軍事境界線」を宣言している。このように、延坪島周辺は南北が対立する紛争の最前線であり、ここで武力衝突が発生した。痛ましく、起きてはならなかった遺憾な事態である。

 戦争は、何よりも避けねばならないことである。韓国の李明博大統領は、「挑発に相応の代価を」と発言し、NLL近くの五島への戦力配備を強化するとしている。菅首相は、朝鮮の砲撃について「許しがたい蛮行だ。北朝鮮を強く非難する」と述べている。11月28日から12月1日までは、黄海で米韓合同演習が行われたが、これに派遣された米原子力空母「ジョージ・ワシントン」は横須賀を母港としている。同じく派遣されたイージス巡洋艦「カウペンス」、駆逐艦「シャイロ」「ステザム」「フィッツジェラルド」もまた横須賀から出発した。日米韓の軍事的一体化も強まっており、朝鮮の孤立化、体制崩壊へ向けた動きが一層強まろうとしている。朝鮮半島の平和と統一、東アジアの共同、日本国憲法の理念実現をめざすものにとって、看過できる事態ではない。


朝鮮批判一色でよいのか

 今回の事態に対して、『毎日新聞』社説(11月25日)は、「何をするかわからない――。韓国に対する北朝鮮の砲撃は、この国の度し難い脅威を改めて浮き彫りにした」とした。また、『朝日新聞』社説(11月24日)は、「韓国軍は現場海域で軍事演習をしていた。北朝鮮軍は『南朝鮮が軍事的挑発をし、断固とした軍事的措置を講じた』と報道し、軍事演習に対する行動だったことを主張している。過剰で身勝手な反応である」としている。こうした論調は、一般ジャーナリズムだけではなく、リベラルな護憲派憲法学者の中にも見受けられる。そうした中で、圧倒的に多くの国民は、朝鮮側が無闇に韓国側に砲撃したと思い込んでいる。

 ここでは、冷静に朝鮮側の主張を聞くことも必要である。『朝日新聞』社説のいう「韓国軍の軍事演習」とは「護国演習」のことである。護国演習は、米朝枠組み合意によって一九九四年から中断されている米韓合同軍事演習「チームスピリット」に代わるもので、96年から実施されている。「チームスピリット」は、朝鮮に対する戦争に備えた訓練であり、護国演習もその狙いを持ったものである。朝鮮が警戒するのは当然であろう。朝鮮人民軍司令部の報道全文では次のように発表されている。「『護国』とかいう北侵戦争演習を繰り広げておいて、朝鮮半島の情勢を緊張、激化させてきた南朝鮮傀儡たちは22日、延坪島に配置した砲武器で我が方の領海に砲射撃を加えようとする挑発的な計画をためらいなく発表した。これに関連して我が方は、23日8時に電話通知文を通じて南朝鮮傀儡軍部に我が方の領海に対する砲射撃計画を直ちに撤回することを強力に要請しながら、もしこの要求を無視した場合、断固たる物理的対応打撃に直面するようになるだろうし、それからもたらされるすべての禍に対して全面的責任を負うようになるだろうということを厳重に警告した。・・・・我々の度重なる努力を無視して遂に延坪島に配置された砲武力を動員して朝鮮西海の我が方の領海を目標に先に砲射撃を加える無謀な軍事的挑発を強行した。結局、延坪島は我々に軍事的挑発を加えてきた本拠地になったし、それによってわが軍隊の自衛的措置にともなう当然な懲罰を受けることになった」。

 ここでは、「韓国軍は北側ではなく南側に向けて砲撃していたが、北朝鮮が突然、韓国軍地に向け海岸砲を発射した」とする韓国側への反論と、韓国による朝鮮への侵攻作戦としての護国演習に対する警告・警戒と真剣な危機対応が示されている。テレビのCS放送では、評論家の辺真一氏が「韓国が先に砲撃した可能性が高い」と言っている。もっとも、こうした武力衝突が起きる緊張状態にあることが問題で、解消されるべきことだが、この朝鮮の立場・主張を『毎日新聞』『朝日新聞』のように「度し難い脅威」「過剰で身勝手な反応である」と切り捨てることが可能であろうか。そうではないであろう。


朝鮮戦争は終わっていない

 次ぎのような主張もある。「北側から見れば自国が主張する境界線を越えて韓国艦隊が接近、実弾射撃までするのは威嚇行為、と取るだろう。海軍の実弾射撃は外洋で行うのが普通で、仮想敵に練度を知られる陸岸近くで行う必要はない」(軍事ジャーナリスト・田岡俊次、『AERA』12月6日号)。田岡俊次氏は、「『韓国・延坪島を北朝鮮軍が砲撃』との報に日本メディアは戦争が始まったかのように驚き、号外まで出たが、私はこれは局地的な事件、と判断した」ともしているが、これは最悪誰もが願うことである。同時に、今回の武力衝突は、朝鮮戦争がいまだ終わっていないことを実感させた。いま求められるのは、何よりもまず戦争回避・緊張緩和へ向けた取り組みである。今回の事態を受けて、中国が六者協議を提唱している。六者協議は、この間、軍需産業の影響を受けたオバマ政権、拉致問題を絡めた日本政府の妨害、李明博政権の対朝鮮強硬策によって進展が閉ざされてきた。朝鮮との合意を破ってきたのはこれらの国であり、いまも米日韓は、開催に反対している。そのくせに、中国に朝鮮への影響力行使を要請している。まったく矛盾したおかしな話である。六者協議は朝鮮半島の非核化を展望している。日本と世界の声を高めて六者協議開催を実現したい。