「進歩と改革」No.706号    --2010年10月号--


■主張 日朝関係改善、国交正常化の秋へ



韓国併合100年の年に

 今年8月29日、日本が朝鮮を植民地にした「韓国併合ニ関スル条約」の発効から100年が経った。日韓知識人共同声明(5月10日)が言うように、「韓国併合は、この国の皇帝から民衆までの激しい抗議を軍隊の力で押しつぶし、実現された、文字通りの帝国主義の行為であり、不義不正の行為である」。また「韓国併合にいたる過程が不義不当であると同様に、韓国併合条約も不義不当である」。本誌はこの歴史認識を共有し、日本と朝鮮半島の国家・民衆の平和と共存、親善・友好、相互信頼醸成のために努めたい。

 8月10日には、菅直人首相の談話が発表された。この談話については、今月号で日朝国交正常化連絡会の石坂浩一共同代表に論評いただいた。そこにも指摘されているが、おかしいと思うのは、菅首相談話に朝鮮民主主義人民共和国(北朝鮮)に対する言及が何一つないことである。それはまるで、韓国併合は朝鮮半島の南側だけに行われたようであった。今回の談話を、日朝国交正常化へ結びつけていくことが求められていただけに、その内容は我われの期待を裏切るものである。残念という以外にない。ここには、民主党の対北朝鮮認識が色濃く反映されている。菅首相談話に対しては、民主党内からも強烈な反対が出されている。鳩山政権下では、高校無償化政策が実施されたが、中井洽・拉致問題担当大臣らの反対で、朝鮮学校への適応は除外・保留された。その後、文科省は専門家会議での議論をすすめ、8月中に適応決定するとの報道も行われたが、結局は先送りされることになった。これも、民主党内の対北朝鮮敵視・強硬派や右派勢力の主張が反映した結果であろう。強く批判されなければならない。


蓮池透氏の提言

 戦後65年、冷戦が崩壊して20年が経過しても、隣国である北朝鮮といまだに国交がないのは、極めて異常なことである。しかし、その異常さを異常と思わせない世論誘導がある。北朝鮮脅威論が際限なく繰り返され、拉致問題での強硬策が喧伝されている。この不正常な状態をあと何年、何十年続けようというのか。強硬策で拉致問題が解決するのか。答えは自ずと明らかであろう。ここで、民主党政権に考えてほしいのは、拉致家族連絡会の元事務局長である蓮池透氏の発言である。さる7月23日、日朝国交正常化連絡会の総会・記念講演会が開かれたが、そこで講演した蓮池氏は次ぎのように語った。「私は、拉致問題は国交正常化して解決するべきだと考えています。。今のような制裁を行って、不正常なままでこの問題を解決することは不可能です」「現在の日朝関係は最悪の状態で、憎悪をぶつけあっています。昨年、政権が交代し、日本はこれを契機に外交路線を変えるチャンスが来たと期待したのですが、そうはなりませんでした。民主党は前政権とは違うアドバンテージを持っています」「まず日本側が制裁措置を緩和して、これに応じて朝鮮側が拉致問題の再調査を行うという一昨年の実務者協議に戻るべきだと思います」。一時は「強硬派の急先鋒」とされた蓮池透氏であるが、いま強調するのは日朝平壌宣言の精神に基づく対話と解決である。蓮池氏の主張は、『拉致―左右の垣根を超えた闘いへ』や『拉致対論』などの著書でも詳しく述べられている。拉致被害の当事者である弟の薫氏との対話のなかから導かれた結論だと思われるが、蓮池氏が強調する「日朝平壌宣言に基づく対話と解決」は、至極当然なものであり、説得力のあるものである。この声が受入れられる世論を、我われ運動する側も強めなければならない。


日朝平壌宣言八周年を迎え局面打開を

 今年9月17日で日朝平壌宣言から8周年を迎える。拉致問題を振り返ってみても、蓮池薫氏ら五人が帰国して以降、解決にむけた成果はない。何とも無駄な時間を過ごしたものである。制裁・圧力路線が何らの成果をもたらさないことは、すでに経過として証明されている。いま空白の八年間を取り戻さなくてはならない。民主党政権は、舵を切りなおす時である。民主党の代表選は9月14日に投票されるが、菅、小沢両氏の争いである。どちらが勝つかはもちろん分からないが、いずれにしろ、その後の組閣では対北朝鮮強硬派を規制・排除し、日朝両国の関係改善、国交正常化交渉に一歩踏み出すことを強く望みたい。