「進歩と改革」No.705号    --2010年9月号--


■主張 参院選敗北・辻元離党表明と社民党―党再生へむけ意思と理念・政策、力を形成しよう!



「離党するのはつらい」と涙を流して欲しかった

 辻元清美衆院議員が、社民党離党を表明した。辻元氏を支援する地元有力団体から決断を迫られていたという。参院選の結果、民主党の敗北で、形を変えた「ねじれ国会」が再現し、総選挙も近そうだ。こう見れば、今回の辻元離党表明は、非常に分かりやすい構図のなかで起きた事態といえる。辻元氏は、記者会見(7月27日)の朝、福島社民党党首と会談し、「小選挙区で何としても勝ちたい」と述べたともいう。これは、連立を離脱した社民党では、きたる総選挙に勝てないということであり、社民党離党で今後の議員活動の展望を見出そうとする辻元流「永田町航海術」であろう。厳しく指摘するなら、二大政党化への屈服であり、辻元氏の変質である。

 それにしても、こうした辻元氏の姿を見るのは辛く哀しいことである。辻元氏は、96年の衆院選で初当選し、社民党のホープ・エースとして活躍してきた。02年、いわゆる秘書給与流用問題で議員辞職した際の「議員は辞めても、社民党を離党する選択肢はない」との発言には、全国の党員が大きく感動し、励まされた。それは、今回の立場とは真逆なものであった。福島党首との会談では、「野党となった社民党は独自性を大切にして、反対、批判すべきはして、存在感を発揮して欲しい」と話したという。「しかし、私は(昨年の)総選挙で社民党だけでなく、民主党、国民新党の協力で選ばれた小選挙区の出身だ。地元有権者は社民党の主張だけで私を選んだのではないと理解している」とも話したという。総選挙で、社民党は連立政権の品質保証役になると主張したのは辻元氏ではなかったか。そして、連立離脱した今、社民党は独自性を発揮して頑張ってほしい、自分は社民党の独自性だけでは選挙が難しいから離党するというのでは、この間、社民党公認として議員活動を展開してきた人として、少し身勝手過ぎないか。辻元氏は社民党であってこそ光輝く存在でありえたと思うが、それは閉ざされようとしている。

 辻元氏は、鳩山連立政権で国土交通副大臣として入閣した。今回の辻元氏の行動の背景には、参院選総括作業への不満があるとされ、より強くは政権認識・対応における党決定とのギャップがあるともされる。そのためであろうか、社民党の連立離脱で国交省を去るに当たっては「辞めるのはつらい」と涙したが、今回、涙はなかった。ここに、辻元氏の心情が示されているのかも知れない。「社民党の連立離脱はやむを得ない」としつつも、社民党より政権の方に思いが残るということなのか。せめて今回も「社民党を辞めるのはつらい」と涙して欲しかった。社民党は辻元氏の慰留に努めるとしているが、押し止めることは無理であろう。辻元氏には、本誌にもたびたび登場いただき、元気をいただいてきた。離党表明は、残念無念で、また批判されるべきだ。我われは辻元氏とは異なり、社民党の改革・再生へ今後も努力を重ねたい。


「安保と三池50年」の年に、戦後革新勢力の敗北

 辻元氏が社民党離党を表明した背景には、進む二大政党化のなかでの少数政党の苦悩がある。一方で、みんなの党の躍進に見られるように民主・自民に集約されない民意も存在する。問題は、それを社会民主主義や革新陣営が結集できないことにある。そうしたなかで、社民党の参院選総括が問われている。

 社民党は参院選で敗北した。選挙区では新潟の現職議員の再選が果たせず、比例区は二議席に留まった。比例区では、福島みずほ党首が三選し、吉田忠智氏が最後の議席を確保したが、あと3万21票不足すれば、一議席に留まるほどの苦戦であった。比例区票は前回263万票(4・5%)を減らし224万票(3・8%)であるが、得票率が前回に比べ上回ったのは九県しかない。それにも関わらず比例二議席を何とか維持できたのは、神奈川を中心とした全国での福島、東京での保坂、兵庫での原、大分での吉田氏の知名度が何とか生きたからであろう。社民党票ではなく個人票に救われた形であるが、その個人票も減少した。敗北したのは、社民党だけではない。共産党も同様である。比例区の議席を減少させ、また東京選挙区で小池晃氏を落選させたことで、「いっさいの聖域を設けず」に総括が深められているようだ。安保・三池の闘いから50年の年の参院選で、社・共が敗北したことは象徴的で、戦後左翼・革新の歴史的遺産の極小化を意味しているのではないか。
  

参院選総括・党再建論議を、統一自治体選勝利の力へ

 社民党にとって、参院選で主に総括されるべきは、@「生活再建まっしぐら」の政策的浸透力、A沖縄・普天間問題の争点化、B連立政権離脱時の構え、C候補擁立作業の検証、D地方組織の現状分析、E広報活動の検証などであろう。「生活再建」に関しては、今回、消費税増税問題が焦点化し、菅民主党が大敗したが、それに反対した社・共も敗北した。消費税増税については、社民党は主に「逆進性」を問題としたが、金子勝・慶応大学教授が、「逆進性」だけでなく、雇用に与える悪影響について指摘している。ここで紹介する紙幅はないが、消費税増税は非正規雇用を拡大するという主張である。社民党は格差社会追及の元祖である。格差社会を撃つ視点からの消費税増税問題への言及を含め、主張における刷新が必要ではないだろうか。

 今回、沖縄県では社民党が比例区でトップの票を得た。沖縄へ思いを重ねて連立離脱した社民党への評価であろう。山口二郎・北海道大学教授は、『毎日新聞』(6月10日)で、社民党の連立離脱を批判し、「一番被害を被るのは沖縄県民だ」としたが、その被害を被るはずの沖縄で社民党が大きく得票した意味は大きい。しかし同時に、普天間問題は菅首相の消費税増税発言、マスコミの無視もあり局地化された。ここには、国民意識の保守化、反戦平和運動衰退という現実も反映している。平和国家へむけた説得的な構想も問われるが、ここで一番問いたいのは連立離脱効果を過大視し、護憲・平和票に期待をつないだ党内意識がなかったかということである。もちろん連立維持で得票が増えたなどと評論することはできないが、連立離脱以降の党・党員の構えについては深刻に検証すべきである。

 社民党は、再建への最後的な転換点に否応なく立たされている。社民党が現代社会民主主義の党として位置し存在する意義は変わらないはずである。問われるのは、そこへの全党的意思の結集、党組織の現代化、具体的政策の精緻化、そして地域からの主体確立ではないかと思われる。社民党は、参院選総括と党再建=現代社民政党建設論議を一体化し、その作業を来春の統一自治体選勝利への力としたい。