「進歩と改革」No.702号    --2010年6月号--


■主張 憲法施行63年の日本と沖縄米軍基地―普天間飛行場閉鎖・県内移設反対へ全国の力を寄せよう!



沖縄の心が一つに―鳩山内閣にイエローカード

 4月25日の沖縄は、普天間飛行場の閉鎖・返還と県内移設に反対、国外・県外移転を求める島ぐるみの総決起の日となった。当日開催された県民集会には、会場の読谷村運動広場に9万人余が結集。参加できない人も、公設市場で働く人は、鳩山内閣へのイエローカードを意味するシンボルカラーの黄色の服を着、老人ホームで過ごす人は黄色のリボンを付け、劇場で公演する団員は黄色の鉢巻をしていたという。まさに県民総決起である。

 ここで県民大会の決議(米軍普天間飛行場の早期閉鎖・返還と県内移設に反対し、国外・県外移転を求める決議)の全文を紹介したい。

 「普天間飛行場の返還は平成八年日米特別行動委員会(SACO)合意から13年経過した今なお実現を見ることなく、その危険性は放置されたままです。

 しかも、平成16年(2004年)8月13日に発生した沖縄国際大学構内への米軍海兵隊所属CH53D大型輸送機ヘリコプターの墜落事故は、市街地に位置し、住宅や学校等が密集する普天間飛行場の危険極まりない現実を明らかにしました。一歩間違えば大惨事を引き起こしかねず『世界一危険な飛行場』の存在を改めて内外に明らかにしています。しかも平成18年(2006年)の在日米軍再編協議では同飛行場の全面返還を合意しており、県民や宜野湾市民は、最も危険な普天間飛行場を早期に全面返還し、政府の責任において跡地利用等課題解決を求めているのです。

 私たち沖縄県民は、去る大戦の悲惨な教訓から戦後一貫して『命どぅ宝』、基地のない平和で安全な沖縄を希求してきました。にも関わらずSACO合意の『普天間飛行場条件つき返還』は新たな基地の県内移設に他なりません。

 県民の意思はこれまで行われた住民投票や県民大会、各種世論調査などで明確に示され、移設先とされた名護市辺野古沿岸域は国の天然記念物で、国際保護獣のジュゴンをはじめとする希少生物をはぐくむ貴重な海域であり、また新たなサンゴ群落が見つかるなど世界にも類をみない美しい海域であることが確認されています。

 名護市民は、辺野古の海上及び陸上への基地建設に反対しています。また、勝連半島沖埋め立て案についてはうるま市長・市議会ともに反対を表明しています。  よって、私たち沖縄県民は、県民の生命・財産・生活環境を守る立場から、日米両政府が普天間飛行場を早期に閉鎖・返還するとともに、県内移設を断念し、国外・県外に移設されるよう強く求めるものです。以上決議します。」

 この決議に、沖縄県民の心が一つになった。沖縄の心を全国が共有したい。


日本国憲法下の安保条約・在日米軍―蘇る伊達判決

 普天間飛行場の閉鎖・返還が大きな課題になるなか、憲法記念日を迎え、日本国憲法は1947年の施行から63年が経過した。今年は、安保条約改定から50年でもある。憲法と安保条約・米軍基地をめぐっては、59年の東京地裁・伊達判決で「米軍の駐留とその法的根拠となる日米安保条約、それに基づく日米行政協定は、日本国憲法第九条二項の戦力保持の禁止条項に違反」とされた。画期的な伊達判決は最高裁で破棄されたが、この裏に駐日米大使(館)と日本政府・最高裁の謀議があったことが、08年4月、米国公文書で明らかになった(土屋源太郎・日米の謀議で覆った砂川事件「伊達判決」『進歩と改革』09年7月号参照)。伊達判決のもつ意義が再び蘇ったのであり、日本国憲法下の安保条約、在日米軍の意味するものに、改めて焦点が当てられた。

 72年5月15日の沖縄の本土復帰からは38年が経つ。本土復帰の際の日本政府声明は、「沖縄を平和の島とし、わが国とアジア大陸、東南アジア、さらに広く太平洋諸国との経済的、文化的交流の新たな舞台とすることこそ、この地に尊い命をささげられた多くの方々の霊を慰める道であり、われわれ国民の誓いでなければならないと信じる」としていた。しかし、平和の島・沖縄は実現していない。日本の国土面積の0・6%しかない沖縄県に全国の米軍施設の約25%が存在し、米軍専用施設面積は全国の約75%を占めて、沖縄県民のいのちと暮しを脅かしている。4・25県民集会決議を、憲法施行63年を迎えた日本がどう受けとめるのかが問われており、憲法理念と現実との乖離を埋める政策対応が求められている。


混迷する鳩山内閣―対中国・北朝鮮抑止論からの脱却を

 沖縄県民集会と憲法施行63年を経た日本を受けて思うのは、自公政権からの交代を実現した鳩山政権の新政権として果たすべき歴史的役割である。社民党・福島党首の異議申し立てで、現行辺野古案での昨年内決着を断念した鳩山首相が、打ち出したのが五月決着論であった。そして、報道されたのが、キャンプシュワブ陸上部への移設案、勝連半島沖埋め立て案であり、直近では辺野古での杭打ち桟橋方式への修正案である。まるで「モグラ叩き」ゲームのモグラのように、次々と出てきている。しかも、県内「たらい回し」である。このたらい回し=県内移設案に反対する沖縄県民の意思はすでに明確であり、それは鳩山首相の沖縄訪問の際にも示された。しかも、不可解というか、鳩山首相は、「マスコミが報道するくい打ち桟橋方式もまだ決まったものではない」と沖縄で記者に答えている。だったら、報道直後、明確に否定すれば良いのだが、日米実務者協議では、このくい打ち桟橋方式が説明されている。鳩山首相の対応の不透明さが、政権の危機を深めている。

 鳩山首相の沖縄訪問時の発言でハッキリしたのが、中国・北朝鮮への抑止力論に依拠していることである。岡田外相も「自衛隊だけでは日本は守れず、米軍の抑止力で北朝鮮や中国の脅威に対処できる」とより直截に発言している。抑止力をめぐる論議はひとまず置くとしても、いま問われているのは、普天間飛行場の閉鎖である。普天間飛行場を根拠地とする沖縄の米軍海兵隊が抑止力としても存在していないことは、様々に説得的に指摘されている。鳩山首相は、改訂50年を経た日米安保の危険な変質を見据えつつ、対中国・対北朝鮮脅威論に執着する安保観から脱却する平和戦略を提示し、その下で対米交渉を強め、沖縄の負担軽減、普天間飛行場の国外・県外移設へ段階的措置を含む沖縄基地問題解決に立ち向うべきである。5月決着論に囚われてはならない。