「進歩と改革」No.699号    --2010年3月号--


■主張 第174回通常国会の課題



鳩山首相の施政方針演説と「新しい公共」

 1月18日、第174回通常国会が召集された。会期は、6月16日までの150日間である。通常国会では、緊急経済対策の09年度第二次補正予算が28日に成立し、翌29日、衆参両院本会議で鳩山首相の施政方針演説が行われた。

 鳩山首相の施政方針演説で、注目したいのは、「新しい公共によって支えられる日本」の項である。そこでは、次のように述べられた。「人の幸福や地域の豊かさは、企業による社会的貢献や政治の力だけで実現できるものではありません。今、市民やNPOが、教育や子育て、街づくり、介護や福祉など身近な課題を解決するために活躍しています。人を支えること、人の役に立つことは、それ自体がよろこびとなり、生きがいともなります。こうした人々の力を、私たちは『新しい公共』と呼び、この力を支援することによって、自立と共生を基本とする人間らしい社会を築き、地域のきずなを再生するとともに、肥大化した『官』をスリムにすることにつなげていきたいと考えます」。この鳩山首相の「新しい公共」論は、もともとは総選挙前に発表された「私の政治哲学」(月刊『VOice』09年9月号)に謳われていたものである。

 この間、官が肥大化し、公共性を独占してきた。一方、官の肥大化を打破するとして、新自由主義が跋扈し、官から民・自己責任論が強調され、結果、貧困が拡大し、社会の絆を破壊してきた。官と民が対抗する構図のなかで、軽視されたのが公共である。そうしたなか、今回の鳩山演説で、「新しい公共」が取り上げられたことは、日本の社会構造の転換をはかるうえで特筆すべきことである。政治学者の山口定教授によれば、新たな公共性論として大事なのは、新たな市民社会論と緊密な関係をもった公共性であり、民主主義の現代的バージョンアップへ寄与する公共性である。それは、決してネオ・ナショナリズムに依拠する「国家」の復権を唱えるものではない(『新しい公共性ーそのフロンティア』有斐閣刊)。

 鳩山首相は、「新しい公共」円卓会議を通じて、5月を目処に、新しい考え方、活動を担う組織のあり方、担い手を拡大する社会制度のあり方について、具体的提案をまとめるとしている。本格的な公共論と具体化を期待しつつ注視したい。新しい公共論の展開は、現代社会民主主義に問われている重要な課題でもある。


小沢氏の国会での説明と企業・団体献金禁止を

 鳩山首相の偽装献金問題に加え、小沢一郎民主党幹事長の資金管理団体「陸山会」の土地購入をめぐる問題が浮上した。「新しい公共」という現代的な課題が提起される一方で、古くからの「政治とカネ」をめぐる問題が突きつけられて、通常国会の大きな焦点となっている。

 東京地検特捜部によって、陸山会事務所や小沢氏の個人事務所、大手ゼンコンの鹿島本社などがいっせいに家宅捜査された。さらに陸山会事務担当者であった石川衆議院議員ら三人が逮捕され、一月二三日には小沢幹事長への任意の事情聴取が行われた。石川氏逮捕の直接容疑は、2004年(平成16)分の政治資金収支報告書への収支虚偽記入である。2004年は、陸山会が3億4000万円で東京都世田谷区の土地を購入した年である。

 しかし、虚偽記入による逮捕は異例との指摘がある。また、国会議員を国会開会三日前に逮捕するほどの容疑根拠はないとの指摘も強い。そこから、石川氏ら逮捕は、陸山会の土地購入資金が小沢氏の地元の岩手県奥州市の胆沢ダム工事受注をめぐる裏献金であることを立件するためにやったことだとされている。その通りであろうが、それにしては検察の捜査手法は強引である。この点では、検察による新聞記者への情報リークが記者クラブ制度とともに批判されており、小沢氏逮捕にむけた世論喚起をはかる検察・マスコミの政治的意図が露骨である。今回の検察の動きには、政権交代という改革に抗い、伝統的権力権威を墨守しようとの意図が強く働いているのではないか。権力機構である検察への警戒と監視を怠ってはならないことは明らかである。

 一方、小沢氏は疑惑を否定している。しかし、石川議員逮捕後の1月21日の記者会見では、土地購入資金の出所など何ら説明しなかった。事情聴取後の記者会見では、一応の説明をしたが、説明責任が果たされているとは言えず、多くの人は納得していないのではないか。小沢氏の『日本改造計画』には、「近年、政治資金絡みのスキャンダルが相次いだことで、国民の政治不信は議会制民主主義の根幹を揺るがせるまでに高まっている」とある。国民の政治不信解消と議会制民主主義のために、小沢氏は率先して国会の場で自ら説明責任を果たすべきである。民主党にとっても、それが新しい政治の展開へむけ果たすべき義務であろう。そして、今通常国会で企業・団体献金禁止が実現されなくてはならない。


社民党に望む

 通常国会で審議される2010年度政府予算案については、本誌今月号に社民党政策審議会事務局長の横田昌三氏が詳細に述べている。今回、削減できなかった防衛費については、半田滋・東京新聞編集委員が、週刊『金曜日』で痛烈な批判を行っている。社民党の福島党首(消費者・少子化担当相)が、防衛費の見直しにむけ閣内で積極的に発言してきたことは確かだが、残された課題となった。国民新党の亀井静香代表(金融・郵政改革担当相)がデカイ声で防衛省の応援団になったという。亀井氏は、企業・団体献金禁止にも反対している。亀井氏は、「経営者よ、人間を道具扱いにするな」と発言し、キャノンの偽装請負や派遣切りなどを批判してきた。しかし、企業献金を認めながら、派遣切りを批判しても説得力はない。ここは「ウエルかめ」と企業・団体献金禁止へ舵を切るべきだ。民主党は党内をまとめ、社民党とともに積極的な働きかけを強めてほしい。

 通常国会に臨む社民党の課題は多くて重い。沖縄問題では、全国注視の名護市長選挙で、辺野古移設・新基 地建設反対を主張した稲嶺進氏が勝利した。これは、社民党にとって沖縄からの大きな励ましである。労働者派遣法の 抜本改正の課題もある。その社民党は、1月23日から24日にかけて第12回全国大会を開催した。大会論議は活発 で、来賓の鳩山首相への拍手は温かかった。連立政権への認識や対応について、意志統一が深まったと思う。しかし、 役員改選では、両院議員総会で選出する政審会長、国対委員長が大会期間中に決まらず、大会後に持ち越された。最 終的には、27日に決定されたが、これは説明のつかないこと(村山富市名誉党首・元首相)である。代議員、党員、支持 者の期待に反することだと言わなくてはならない。猛省を促がし、通常国会での挽回を強く望みたい。(1月31日)