「進歩と改革」No.697号    --2010年1月号--


■主張 行政刷新会の「事業仕分け」と残された課題



 来年度予算の編成に向けて、各省の概算要求に対し、ムダを洗い出す行政刷新会議の「事業仕分け」が11月27日、正味9日間の作業を終了した。

 「事業仕分け」の背景と課題は、鳩山内閣の最初の予算編成作業にあたり、各省の概算要求が民主党のマニフェスト実現も含めて、95兆円に達したこと、一方、リーマン・ショック、さらにはドバイ・ショックに至る深刻な経済不況で税収見通しが40兆円を割る見通しとなったこと、自公政権が作り出した900兆円に達する財政赤字の圧力の下で、国債の発行には、限度があり、来年度の発行限度は44兆円以下と設定されていること、従って、歳出を増やさずにマニフェストでうたった政策を実現するには、国の事業費のムダを洗い出し、費用の削減が必要なこと、その目標額は3兆円以上と設定されたことである。

 このために刷新会議には「仕分け人」として、民主党議員七人(当初は三32人を予定)、民間から道路公団改革や地方自治体改革に携った「仕分けのプロ」が選ばれ、「必殺仕分け人」とよばれた。しかし、連立与党である社民党、国民新党からは選ばれず、国会議員は民主党が独占、両党には不満が残った。

 事業仕分けの対象となったのは、国の事業3千のうち447事業で、これが200余の項目に整理された。この選定作業を行ったのが財務省であったことから財務省が裏で操作しているのではないか、結局は官僚の掌でおどっているのではないかとの批判的観測も生まれた。しかし、財務省が各省庁を相手に密室で行っていた査定を民間人を入れて公開で行ったことは、予算編成作業の透明化とそこで明らかにされた問題点とともに評価されよう。

 事業仕分けの結果は、50を超える事業が「廃止」となり、その額は約1300億円、約20事業が「計上見送り」、その額は約1600億円、70以上の事業が「予算削減」、その額は約4500億円、さらに公益法人や独立行政法人の基金のうち約8400億円を国庫に「返納」することを求めた。以上を合計すると「仕分け効果」の総額は1兆6千億円となった。これでは目標とされた3兆円超には遠く及ばず、「仕分け作業」の結論がそのまま確定ではないものの、むしろ復活折衝も残されているだけに予算の編成作業が厳しいものとなることが予想される。


「仕分け」の効果と限界

 もともと「事業仕分け」という手法には限界も指摘されていた。刷新会議の事務局幹部も「制度改正がともなうものはなじまない」「せいぜい1省で数十億、全部合わせても1兆円なんて数字ははるかかなただ」(11月7日付「朝日」)と言っていた。それにしては1兆6千億という「仕分け効果」は斬り込んだと言えるかもしれない。各論としては不十分、斬り過ぎなどあろうが、結論としてはさらには「国家戦略」に基づく大きな政治変革が必要ということだろう。

 そのような前提をふまえて、「仕分け」の中身に入ると、重複する事業の整理・統合、地方自治体にまかせるべきなどの結論がかなりあった。「事業によって(国交省内で)担当部局が異なり、事業の重複がみられる。担当部局の統合は検討しないのか」(仕分け人)、「永遠の課題です」(担当者)。「補助金で街づくりに国が関与する必要があるのか」(仕分け人)、「国としてこうしてもらいたいという政策意図は持ち続けたい」(担当者)、「大きなお世話だ」(仕分け人)  ポストや省益を確保したい、天下り先を確保したいという官僚の本能からして、これらは官僚同士の密室の作業では斬り込めなかっただろう。

 同様の問題が外務省所管の独立行政法人「国際協力機構」の出張旅費、年間2万人にものぼるが、これまでにも指摘されてきたが、改善されなかった問題だ。同じく外務省の「無償資金協力」もヤリ玉に挙がった。14億8700万円もかけてフィリピンに浄水施設7ヵ所を建設したが、2ヵ所が使用されていない  結論は見直しとなった。

 政治の大きな方向づけが必要とみられるのが防衛省関係。自衛官3500人の増員(72億円、海外派遣の拡大に対応)を見送りとしたのは評価できるが、項目のリストそのものが、銃器類、弾薬のコスト削減、装備品の選定段階のコスト抑制にとどまっており、後年度負担の大きい正面装備そのものにはふみこんでいない。在日米軍駐留経費の日本側負担(思いやり予算、1910億円)の駐留軍労働者の人件費抑制に矮小化された。思いやり予算の本質的問題が見すごされ、労働者にしわよせされるのでは到底納得できない。

 医療費の「診療報酬」も問題になった。「09年度予算で約9兆円の国費を計上してい る薬価など診療報酬の見直しも大玉だ。財務省側は『診療報酬の多くは、要するに医師の人件費、世間の人 件費が下がっている時代に、医師の報酬だけ税金で上げる理屈はおかしい』(幹部)などと指摘の事業仕分けで、 平均収入が高い開業医の報酬などの大幅削減が決まれば、数千億単位の削減効果が出るとそろばんをはじく」 「薬価の見直しは、効能が同じで値段が安い後発薬品の普及を一気に進めるため、先発薬品の薬価削減を大胆 に進めたい考え」(11月10日付「朝日」)。「政府の行政刷新会議の『事業仕分け』でやり玉に挙がったこ とをめぐり、13日の中央社会保険医療審議会(中医協)で、『あまりにも乱暴だ』などの反論が相次いだ。中医 協は、勤務医重視に見直すよう医師側のメンバーが一新されたばかり。ところが中医協が担ってきた診療報酬改 定にケチを付けられ、この日は仕分け人に対する批判で盛り上がった・・・『人民裁判のようだ』『我々は少なく とも専門家で、何時間も議論を重ねている』」(11月14日付「朝日」)。「薬価は昔からクスリクソーバイ」と 言われる。薬品メーカの営業マンは医者を旅行付きのゴルフや飲食に接待し、厖大な営業経費は当然薬価に計上される 。検査漬け、薬漬けの医療は医療機械のもとをとろうと、救急病院からレントゲン写真をまわしても、また同 じ写真をとる。こんな実態に少しでもさわられると、専門家無視だ、人民裁判だと大さわぎする。金がもうか りだすと、抑制がきかなくなるのが貨幣の本質である。これも1回の「仕分け」ですむようなことではない。

 「事業仕分け」は今回だけでなく、おそらく今後も続き、さらに本格的になっていくだろうが、それ だけではすまないだろう。予算案にはすでに見たような制約もある。国債発行を抑えながら公約を実現するためには優先順位を明確にしていく必要があるだろう。