「進歩と改革」No.693号    --2009年9月号--


■主張 政権交代を予測して民主党に圧力をかけるアメリカ ―「見張り番」、政権の「品質保証」役、社民党に力を



 総選挙の投票日が8月30日と決まり、総選挙前にはこの号が最終となった。総選挙への全体的アピールは別に渕上貞雄社民党副党首・選対委員長に取材しているので、そちらに譲りたい。ここでは締め切り直前の報道から、アメリカと民主党の関係をとりあげておきたい。自民党から民主党へ、日本で戦後初めてとも言える総選挙による政権交代が有力視される情勢の下で、アメリカも民主党へのシフト移行を始めたようだ。まずこの間の動きを新聞報道により日付順に追ってみよう。

 7月17日、キャンベル米国務次官補が、岡田民主党幹事長と会談。会談後の岡田幹事長の話として、政権交代を念頭に「オバマ大統領と鳩山首相の信頼関係を作って一つ一つ懸案を解決しよう」と述べたのに対し、キャンベル氏は「米政府は政治的に中立だ」と応じ、民主党との関係作りに強い関心を抱いていることを示したとし、民主党が掲げる在日米軍地位協定の抜本的見直しなどをめぐり意見交換したと見られる(18日付『朝日』)

 同19日、鳩山民主党代表は沖縄市の集会で、米軍普天間飛行場移転について「最低でも県外の方向で積極的に行動したい」。名護市の新基地建設については、「沖縄の過剰な基地負担をこのまま維持するのは納得がいかない」と述べた。(20日付『日経』)

 23日、民主党は、衆院選マニフェストの土台となる09年版政策集を公表したが、6月当時の原案にあったインド洋での給油活動を行っている海自の撤収を削除し、期限内の派遣を容認、日米地位協定見直しの表現も緩和した。(23日付『朝日』夕刊)

 同じ日、ライス在日米軍司令官は、日本外国特派員協会で講演。在日米軍再編計画について、「一部だけ選んで実施するメニューではない。いずれの移転計画も相互依存的であり、一部でも失敗すれば全体が頓挫しかねない」と語った。民主党が提唱する在日米軍再編見直しについて、牽制したものと見られている。ライス司令官は「3年かけて慎重に交渉した内容だ。日米両政府が今後も今日と同様に計画を支持し、完全実施することが重要だ」と述べた。(24日付『日経』)

 同23日、オバマ大統領が次期駐日大使に指名したジョン・ルース氏の指名承認公聴会が米上院外交委員会で行われ、ルース氏は、日米同盟を「アジア太平洋地域の安全保障における礎」と位置づけ、次の二本の総選挙に関連し「現在の自民党政権が両国関係を強固にしていることは明白だ」としつつ、民主党についても「同様に両国関係の強化に努力するものと思っている。これらの政策は総選挙が近づくにつれて進展していくだろう」と語った。(24日付『朝日』)

 ルース氏はどのような情報に基づいて、民主党の政策が、総選挙が近づくにつれて「進展」していくと判断しているのだろうか。確かに民主党はキャンベル氏・岡田会談が行われた6日後に6月原案を修正したマニフェスト案を公表した。まだほかに民主党がアメリカの望む方向に接近していく確かな根拠を持っているのだろうか。

 民主党はこれまでテロ対策特措法(01年)に反対したのをはじめ、イラク復興特措法、度重なるテロ対策特措法の延長(03年、05年、06年)、07年のイラク復興支援特措法、08年の海自補給支援再開の特措法、在日米軍駐留経費の負担延長協定、今年に入っての海賊対処法などにすべて反対してきた。


「米軍地位協定・・にふれるなら反米とみなす」と“知日派学者”

 24日付『朝日新聞』は次のように伝えている。

 「軌道修正の象徴は、米国の知日派学者らが昨年来『マニフェストに載れば反米と見なす』と鳩山、岡田氏らに伝えてきた『4点の懸案』だ。@日米地位協定A在日米軍再編B対アフガニスタン支援Cインド洋での海自の給油活動。(マニフェスト)原案ではいずれも抜本的見直しの方向だったが、結局は、@Aはあいまいな表現に後退し、BCは削除。Aで焦点の普天間飛行場の沖縄県内移設に『反対』と明記するかどうかは執行部判断となっていたが、結局、見送られた」

 知日派学者というのは、本当に日本を知っているのかどうか、これでは恫喝でしかない。社民党の前身、社会党は、安保条約の軍事同盟部分を解消して、日米友好条約に変えるとし、これは社民党に至るまで、この党の伝統的対米政策となっているが、友好条約を結ぶと言っても、米軍再編を鵜呑みにし、費用を貢がないと「反米」とみなされるのか。「反米」とみなした後には、何が来るのか。スキャンダルを探し出して、首相を潰すのか、経済を混乱させようとするのか。

 27日に発表された民主党のマニフェストでは、「F外交」の「51緊密で対等な日米関係を築く」は、日本外交の基盤として緊密で対等な日米同盟関係を築くため・・・役割を分担しながら日本の責任を積極的に果たす。自由貿易協定を締結し、貿易・投資の自由化を進める。日米地位協定の改正を提起し、米軍再編や在日米軍基地のあり方についても見直しの方向で臨む(以上要約)となっている。海自の撤収などについてはふれていない。そのほかでは、「55核兵器廃絶の先頭に立ち・・・」の項に「非核三原則」や「核持ち込み」拒否などは明記されていない。日米二国間の自由貿易協定には警戒を必要とするが、「52東アジア共同体の構築を目指し、アジア外交を強化する」を入れたことは評価できそうだ。

 鈴木祐司法政大学教授は、民主党の外交政策について、7月24日付『朝日新聞』で、次のように書いている。

 インド洋での海自撤収を削除したのは今後も派遣を容認し続ける意味ではないと考える。給油活動に反対した理念をおろしたわけでなない。自民党の残した手法や法律を維持しつつ、日米地位協定の改正提起など自民党との違いも見える。他の野党との連立政権に備えて、政策的な幅を増やした。「右へ旋回した」と批判されるかもしれないが、「自衛権の行使は専守防衛に限定」とうたうことは他の野党や民主党の支持基盤にも配慮している(抜粋・要約)と民主党に精一杯好意的な見方をしている。

 巨大なアメリカ「帝国」の既得権の見直しに手をつけるのは容易ではない。しかし、自公政権が崩壊し、野党がこれまで訴えてきたことを貫く姿勢であるならば、この課題は避けて通れない。民主党が少しでも前を向いているならば、社民党は後押しする必要があると思う。


イラク戦争で「ノー」を貫いたドイツ、フランスの場合

 アメリカのイラク侵略に対し、当時(03年)のドイツとフランスの政権は戦争の支持を拒否した。怒るブッシュ政権に対し、ドイツのシュレーダー首相(社民党)は「ドイツの政策を決めるのはベリルンだ」と見得を切り、フランスのドビルバン外相はラムズフェルド米国防長官の「ヨーロッパの古いやり方」との非難にブッシュの単独行動主義に反対を貫いて、「これが古いヨーロッパのやり方だ」とやり返した(本誌03年6月号、柴山健太郎「イラク戦争をめぐる『米欧対立』の意味」)。

 独仏が強大なアメリカに戦争不支持を貫けたのは、戦後一貫して築き上げたEUの経済的社会的力があったことが大きいだろう。民主党は東アジア共同体をマニフェストに入れた。しかし、それはこれからである。自民党政権は外交も、経済もすべてアメリカを向いて構築してきた。もっともアメリカ「帝国」も昔日の威力は色あせつつある。政権交代が実現すれば、米中接近の動きのなかで、日本は一から国際戦略の再構築を迫られるはずだ。

 7月29日、民主党の鳩山代表はインド洋での海上自衛隊による給油活動を延長しない考えを表明した。これを伝えた30日付『日経』は、「政権獲得後、連立を組む方針の社民党への配慮とみられる」。日経は次のようにも伝えた。「『来年の延長をするつもりはありません』。来年1月に期限切れになる海自給油活動について、九州出張中の鳩山氏は28日、携帯電話にかけてきた社民党の福島党首にこう切り出した・・・」

 野党共闘の「品質保証」から連立政権の「品質保証」「見張り番」へ次期政権へのステップの;段階で、社民党はその役割を果たしつつある。より強力な役割を果たせるようにこの党に すこしでも多くの議席を与えたい。