「進歩と改革」No.691号    --2009年7月号--


■主張 鳩山民主党の発足をめぐって



 議員の世襲が問題になっている。問題になるのはよい ことだが、永田町というところは不思議なところで、世 襲制限の対象になるのは、今後新しく立候補する人だけ らしい。小泉、安倍、福田、麻生と最近四代の首相、民 主党の小沢、鳩山氏らの最高幹部はみな世襲候補なのに、 しかも三代目、四代目までいるのに自分は違うと思って いるらしい。世襲を規制するならまず自分が退くとは 誰一人言わない。小泉だけは既に引退を決めているが、 子息に譲るのだから、これぞ最新の世襲ではある。自民 党は小泉ジュニアを公認できないと言っているようだが、 追加公認で処遇すると早くも抜け穴の話し。これで、日 本の政治から世襲がなくなると誰が思うだろうか。

 民主党の代表選で鳩山氏が掲げた政策「友愛の日本を 創る最重点政策」のなかに「衆議院の比例定数を80削 減する」が正式に入った。国の財政を節約するために、 政治家が自ら身を削るというのが、その名目らしい。本 誌前号で山崎一三氏が警告した事項だ。世襲議員と議員 定数の削減には共通する問題が孕まれている。世襲候補 は選挙に有利な地盤、看板、かばん(資金)を親から引 き継ぐ。定数削減をすれば地盤、看板、かばんをすでに 確保している現職が有利になり、新人が出難くなるのは 明らかだ。しかも比例代表を削減するというのは、既存 の大政党に有利となり、日本の政治はますます活力を失 っていくだろう。民主主義に反する問題だ。お金持ちの 鳩山家の四代目のボンが考えそうな話だ。マスコミは鳩 山氏の政策のなかにさりげなく入れただけで、特に問題 にもしなかった。

 問題にしたのは、もっぱら「親小沢」か「脱小沢」か、 小沢一郎氏との距離関係だった。特に小沢氏に社説で辞 任を勧告した朝日新聞は「脱小沢」が民主党代表選の唯 一の注目点であるかのようだった。大新聞のメンツがか かっているかのようで、笑止の限りだった。

 鳩山、岡田で政策に違いがあったか、わからない。そ れは当たり前で、二人とも同じ政党の同じ政策を作って きた幹部なのだ。新聞の紙上討論でも、鳩山氏は岡田氏と ではディベートにならないと語っていた。友愛という言 葉を使うか使わないかぐらいの違い、岡田氏は原理主義 者だそうだが、鳩山氏は違うのかわからない。党運営に 違いがあるのかもわからない。二人とも代表選が終わっ たら、総選挙に向けて一致結束すると、強調し、その通 り演出した。

 では、何のために代表選をやったのか。メディアを賑 わせ、秘書が起訴された小沢氏からのバトンタッチを印 象付け、総選挙に向けて、態勢の立て直しを印象付ける ためのようだ。だとすれば、代表戦後の世論調査では、 麻生よりも鳩山、自民よりも民主の支持が高まったとこ ろから、少なくとも直後の時点では成功だったのだろう。

 鳩山氏も岡田氏も、現在の野党共闘を継続し、仮に総 選挙で、民主党が単独過半数を制しても、共闘の延長の 連立政権を組むと言っている。参議院で民主党は単独過 半数を持っていないから、政権運営上、連立が必要なの である。「鳩山氏は『より平和に貢献するための憲法が 必要だ』としつつも、『首相になった時に即、憲法改正 に手を付けられる状況では残念ながらない』と語った。 同氏はかねて憲法改正論者。旧社会党グループには『鳩 山氏が改正に触れないなら支持する』(幹部)との声も あり、持論を抑えたとの見方がある」(5月16日付日経)

 これは重要な点だ。社民党が政権協議に入る場合、間 違いなく「当面する内閣では憲法改正はしない。憲法調 査会は動かさない」との一札にこだわるだろうが、合意 が成立する可能性が強まった。5月21日の民主・社 民・国民新三党の幹事長、国対委員長会談では共闘に変 わりがないことも確認された。衆議院の比例定数80削 減が果たして政策協議に出てくるかどうか、わからない が、出てきた場合は撤回に努めてもらわなければならな い。

 来るべき総選挙では、憲法に基く、憲政の大道に立つ政権を樹立し、そのことに社民党が力を発揮することを望みたい。