「進歩と改革」No.689号    --2009年5月号--


■主張 小沢民主党代表秘書起訴をめぐって



小沢氏秘書起訴をめぐる新聞の論調

 3月3日、東京地検特捜部によって小沢一郎民主党代表の公設第1秘書が政治資金規正法違反容疑で逮捕され、同24日、起訴された。これを受けて、小沢代表は、贈収賄の新たな事実は出てこなかったとして、なお代表を続ける態度を表明し、民主党緊急役員会と常任幹事会はこれを了承した。

 このニュースを伝えた3月25日付の商業新聞各紙の論調はかなりの相違を見せた。毎日新聞は「検察は説明責任を果たせ」とする小川一・東京社会部長の論説、3面の解説記事でも「異例の立件に波紋」との見出し、社説は小沢代表について「説得力のない会見だった」としつつも、「検察は与野党を問わず捜査を」と自民側の疑惑も追及せよとし、検察のあり方により厳しい見方を示した。

 読売新聞は2面で、「民主不安根強く 与党本音は歓迎」と総選挙前の自民、民主関係に焦点をあて、起訴後の法的行方については3面で小沢対検察は「ダミー性認識焦点」としつつも、「自民側への捜査継続」の見出し。社説は「小沢代表続投後のイバラの道」とした。

 日本経済新聞は1面で「小沢代表 続投表明」を前に、次いで「東京地検『重大悪質な事実、民主党支部分も追加、立件額3500万円』」、そして「『小沢民主』これでいいのか」とする西田睦美・編集委員の論説を掲載、民主党と小沢代表に厳しい紙面構成を見せた。

 朝日新聞は2面に久米良太記者の「微罪批判当たらぬ」とする解説記事、これは「国策捜査」との批判に検察がどこまで説明すべきかとふれているが、「政治家側が法の網の目をくぐる」偽装行為をゼネコン側にさせていることは看過できない事実とし、「微罪」との批判もあるが、禁固5年以下、公民権停止5年の罰則がある虚偽記載罪を微罪とはよべないとしている。さらに3面には「西松献金事件 小沢代表は身を引くべきだ」と題する長大な社説を掲げている。ここでも、検察の説明責任を求める部分は最後にわずかで、主眼は小沢代表の説明責任が果たされていないとし、代表辞任勧告となっている。

 翌26日付朝刊でも朝日は2面トップで、「『小沢おろし』号砲」と民主党内部の動きを伝え、社説を裏づける取材記事を掲載している。

 もう一つこれは週刊誌だが、『週刊金曜日』は、「国策調査・米国謀略・検察暴走 小沢一郎代表がはまった罠」とする特集を行っている。横田一氏の「現地ルポ」、上杉隆氏の「永田町インサイド」、青木理氏の「暴走する検察」を掲載している。「国策調査」と「暴走する検察」は確かに出ているが、「米国謀略」は本文中には出てこない。これはどうしたことか。


検察と小沢氏双方への疑問、水をさされた政権交代気運

 さて、これらを見て、何が言えるか。

 一つは検察も、小沢氏個人も人を納得させるだけの十分な説明はできていないということであろう。双方とも不十分であるとすれば、どちらにより多くの責任があるかであるが、それは検察側であろう。なぜなら日本の社会的政治的な土壌では、逮捕・起訴は有罪とみなす風潮が強いからだ。検察は、世論の動きを見ながら、メディアに捜査情報をリークし、メディアは「関係者の取材でわかった」と情報を垂れ流し、小沢は「クロ」の印象を作り上げている。裁判で法的な決着がつくには時間がかかる。その間に政治的時間は容赦なく進行する。小沢氏は民主党代表をやめるべきだとの世論はすでに定着しつつある。その効果は早くも千葉県知事選に現われた。民主党内部にこれでは闘えないとの不安が広がるのは、ことの是非はともかく、当然だろう。検察は有罪かどうか結果が分からない段階で、逮捕・起訴だけで一人の政治家を葬ることができかねない。しかも、自民側にも疑惑があるのに、漆間官房副長官の発言のように「自民党側は立件できない」と最初からいうのも納得しがたい。この時期の秘書逮捕について、容疑をされる政治家のうち700万円がこの3月末に時効になるからというようだが、小沢クロを印象づけるのに既に時効になった厖大な献金額が流されている。なぜそのときに立件しなかったか。

 小沢氏の発言も「なんらやましきことはない。政治的にも法律的にも不公正な検察権力の行使、異常な手段」という強気の発言が途中でトーンダウンした感があり、記者の前で、柄にもなく(?)涙を見せたり、それはやましいことが出てきたのか。

 『週刊金曜日』が特集のタイトルに「米国謀略」を入れながら、本文にないことを気にするわけは、田中角栄、金丸信と小沢氏に系譜が?がる政治課たちがアメリカ発の疑惑の追及で倒れてきた過去があるからだ。いずれも金銭の疑惑を抱えていたが、同時に角栄は日中国交回復で、金丸は日朝国交回復のうごきでアメリカの不興を買った。同じ系譜の橋本竜太郎は渡米中にアメリカが理不尽なことを押し付けるなら米国債を売ると言って、参院選中に日本の証券市場を混乱させられ、選挙で負けた。小沢氏もソマリアへの海自派遣に反対し、かつては07年8月8日、シーファー米駐日大使がアフガン戦争に関連して、インド洋の海自活動継続のためテロ特措法の延長に賛成するよう促したのに対し、アフガン戦争は国際社会の合意を得ていないと断った。今回の公設第1秘書逮捕の約1週間前には「日本の防衛は米第7艦隊で十分」の発言を行っている。この発言が世界的な米軍再編を進めようとする米側を刺激したことも考えられなくはない。今回、米国謀略があるのか否か、疑惑があるなら注意が必要だ。

 企業の政治献金については、政治家個人だけでなく、全面的に禁止すべきだとする社民党の3月31日の緊急提言は支持できる。

 小沢民主党代表秘書の逮捕・起訴は、政権交代の気運に水をさした。民主党がどのように態勢を立て直すか。とりあえず見守りたい。