「進歩と改革」No.687号    --2009年3月号--


■主張 ガザのために、全面的・永続的な停戦と封鎖の解除を



殺される側と殺す側の言葉

 「ガザの死者は1300人です。数字がゼロで終わっているのは、もう数えきれなくなったということです。死者を数字に還元することはできません。死者には一人ひとりにドラマ(生命)があるのです」

 「双方の死者の数を比べないでほしい」「ハマスはガザ市民を人質にとっている」「イスラエルでは(死者が少ないのは)市民にシェルターを提供しているからだ。……自国民の安全確保は政府の義務だ」

 この二つの発言は数字で判断することをやめてほしいと言う点で似ているようだが、内容は決定的にちがっている。一方は殺される側の人権を主張し、他方は殺す側の自己正当化である。前者は、1月19日、大阪で行われたガザのための映画と講演のなかで、現地の知人と交流を続ける岡真理京都大学大学院准教授が語った言葉(要旨)である。後者はニシム・ペントリット・イスラエル駐日大使の言葉(1月18日付朝日新聞)である。

悲惨なガザの真実の直視を

 岡真理准教授は要旨次のように語った。「イスラエルは(世界が休みに入る)年末年始を狙って、昨年12月27日にガザへの攻撃を開始した。150万人の市民が封鎖され、閉じ込められて一方的に殺されている。私たちはこのことに無関心でいてはならない。パレスチナ人も人間の命に変わりはないのだ。死者1300人のなかに母親の胎内で殺された胎児は数えられていない。子どもの死は441人、負傷者は5320人、うち重態が500人だ。イスラエルは昨日、一方的停戦を宣言したが、まだ占領(講演当日)と封鎖が続いている。イスラエルは救急車まで狙撃している。イスラエルはアメリカが提供する最新兵器を使って大量殺戮を行っている。ハマスがロケット砲撃をするからイスラエルは自衛していると言う。日本のマスメディアは民族対立だ、宗教対立だ、憎悪と報復の連鎖だ、ハマスは原理主義だと言うが、それはガザの真実から人の心を遠ざけるものだ。世界各地で抗議が行われている。抗議しているのはアラブ人だと言うが、そこにもアラブ人に限定しようという意図がある。ヨーロッパでは数万人規模で立ち上がっている。第3次中東戦争に対する国連決議242号で定められた休戦ラインまでイスラエルは撤退すべきだ。国連はイスラエルに対し再三非難決議をしている。人工的な国家イスラエル建国を強行するために、パレスチナ人80万人が追い出され、60年間放置され、難民状態になっている。封鎖されてガザは食べ物もない。メディアはなぜ占領と封鎖を語らないか。ハマスがロケット弾を撃つのはガザが占領され封鎖されているからだ。ガザの占領は42年間続いている。国連は難民登録しながら追われてガザに閉じ込められた100万人以上の人たちの即時帰還を認める決議をしている。占領者の暴力と被占領者の暴力は同じではない。白リン弾は市民に対する残酷な大量殺戮兵器だ。イスラエルは無差別大量殺戮をやめよ」

白リン弾の恐怖

 岡准教授の言葉を聞いて、ベントリット駐日大使の言葉に接すると、やりきれない空しさを感じる。「イスラエルは民間人を意図的に攻撃はしない。反対にハマスはイスラエルの市民だけを狙ってロケット弾攻撃を続けている」「白リン弾は非合法ではない。民間人にではなく煙幕を生じさせるなど作戦に必要な場合に限っている」など。

 一方的停戦後も、戦闘報道が続いており、死者が出ている。封鎖の解除は行われていない。白リン弾がいかに酷い兵器かもようやく伝えられ始めた。家の屋根を突き破って落下し、火のついた破片が飛んで、死を免れても肉を剥がし、火傷だけではすまず、体に深刻なダメージを残す。医師は爆弾の成分がわからないから治療ができないと語っていると言う。「非人道兵器」として、国際的に批判が強まっていると。ガザのような狭い地域に市民が集まっているところへ使用すれば、市民を対象にした大量殺傷兵器となる。イスラエルの駐日大使が語るような煙幕どころではない。

 ガザの解決のためには完全な停戦とその永続化、そして封鎖の完全な解除が必要だ。日本でもようやくガザのための集会やデモが行われ始めた。先に紹介した岡真理氏の講演集会は会場が溢れて、入りきれない人が別室でテレビで見るほどであった。


オバマ大統領に求められるチェンジ

 1月22日のオバマ米大統領の国務省での演説のうち、イスラエル・パレスチナ関係にふれた部分は次の通りだ。「米国はイスラエルの安全保障に全力を傾けてきた。イスラエルの自衛権を常に支持する。イスラム原理主義組織ハマスは(イスラエルへの)ロケット弾を停止しなければならない。イスラエルは完全にパレスチナ自治区ガザから撤退しなければならない。米国とその友好国はハマス再武装を阻止するため武器密輸の防止体制を支援していく。パレスチナの市民には同情を禁じえない。パレスチナの経済復興への支援国会議を全面的に支持していく」(1月23日付日本経済新聞)

 これは余りにもイスラエル寄りの内容だ。オバマ政権の構成は元々親イスラエルと言われてきたが、それを裏づけたような演説ではある。イスラエルとの関係はオバマ政権の限界と指摘する声もある。しかし、戦争大統領と言われた前任者ブッシュに対して「チェンジ」を叫んで当選してきたオバマ大統領である。彼には世界が期待を寄せた。オバマ政権が世界の期待を裏切らず平和と人権に貢献することを望みたい。