「進歩と改革」No.686号    --2009年2月号--


■主張 衆議院で否決された緊急雇用対策関連四法案



参議院で可決された野党3党案

 アメリカ発の金融危機から経済破綻がますます深刻化するなかで、非正規労働者への犠牲の転嫁=首切りが 全面化している。この問題に対する労働運動の対応については、本誌今号で3本の文章を掲載している。ここでは、政 治の場での対応として、12月19日に参議院で可決、同24日衆議院で否決された緊急雇用対策関連4法案につい て取り上げたい。提案したのは、民主党、社民党、国民新党であった。

 4法案は呼び名の最初に「緊急」とついているように、緊急の止血的な性格のもので、本格的にはさらに続け ての取り組みを必要とするものである。四法案とは、採用内定取り消し規制法案、派遣労働者等解雇防止緊急法案、住ま いと仕事の確保法案、雇用保険法改正案である。

 まず採用内定取り消し規制法案であるが、新学卒者の採用内定は近年順調と見られていたが、今春の新卒予定 者は経済の破綻で採用取り消しが広がり、それは高卒にも急速に拡大しつつある。言うまでもなく、これから社会人にな って社会に貢献しようとする若者たちの出鼻を挫き、希望を奪う冷酷なものである。この採用内定は内定の段階で、すで に雇用契約は成立しているとみなされるものであって、これを客観的に合理的な理由なしに取り消すことは無効であるこ とを法律で明記し、悪質な内定取り消しは企業名を公表することを政府に求めるという法案である。

 次に派遣労働者等解雇防止法案は、いま最大の問題になっている「派遣切り」(派遣労働者の首切り)を防止 するため、事業主に助成される雇用調整助成金について、要件の緩和や支給日数の延長などを緊急に行い、2カ月以上勤 務(現行は6カ月)している非正規労働者の休業等も助成対象にするもの。また支給される労働日についても、現行は1 年100日までをすべての労働日とし、6カ月間の緊急措置として、公布後2週間で施行する。

 三番目の派遣労働者の就労支援のための住まいと生活の支援としては、雇い止めや解雇により住居を失った派 遣労働者や、雇用保険の受給資格のない生活困窮失業者に職業訓練や職業紹介とセットで住宅を貸し、生活支援金を給付 するもの。住宅は雇用促進住宅や公営住宅、民間アパートなどを借り上げて確保。生活支援金は最高110万円で、一定の要 件があれば、返済を免除。派遣労働所に寮などの賃貸している派遣会社には解雇後も即時退去を求めないように配慮を求 め、一定期間家賃を助成。(雇用保険法を改正)

 四番目の雇用保険法の改正案は、現行法では1年未満の雇い止め規定があると、雇用保険の被保険者にならない 場合がある。これを雇い止めの有無にかかわらず被保険者とする。基本手当の受給資格要件の被保険者期間を1年から6カ 月に短縮。雇い止め失業を非自発的失業として基本手当の増額、給付日数を延長する。その他の政策の実施により非正規労 働者を広く雇用保険でカバーし、セーフティーネットの対象範囲を拡大する。

 そして非常に重要な問題として、有期労働契約遵守法案(労働契約法改正案)として、雇用については期間の定 めがないこと、それも直接の雇用が本来(原則)であり、契約期間中の解雇は労働契約法17条で無効とされているにもかかわらず、 派遣労働者や期間従業員など契約期間中の解雇が安易にされている。このため有期労働契約の締結事由や差別的取り扱いの禁止、 契約期間中の退職のルール、雇い止めの制限を定める。


野党案には社民党の主張が反映されている

 ここまで来るまでに、社民党は雇用対策チームを作り、政府に三回の申し入れを行い、社民党の主張を野党共同 提案に反映させてきた。審議の間に、政府側は廃止の予定だった雇用促進住宅の再利用など一部をつまみ食いし、野党案は 与党案と重複する部分が多く、野党案をあえて採決する必要がないと宣伝してきた。しかし、政府が12月9日に決定した 「新たな雇用対策」は予算措置や法改正に時間がかかり、必要な予算も第2次補正予算は年末(08年)迄に提出されてい ない。また政府・与党と野党共同案の間には対立するものもあり、マスメディアは譲り合って早く決定せよと圧力をかけて いるが、うやむやには妥協できないものもある。民間テレビ(朝日放送「報道ステーション」)が12月22日に伝えた 世論調査でも、野党3党の雇用対策案に対する支持率は45%に達し、政府の雇用対策に対する不満は75%にもなってい る。因みに内閣支持率は支持21・7%、不支持63・3%であった。政府・与党が「重複するところが多い」と言うなら、 またメディアが決着を急げと言うなら、派遣切りで生活に喘ぐ人たちのために野党3党案をそのまま衆議院でも可決・成立さ せるべきである。

政府、与党、財界の態度は労使の国際水準を引き下げるものだ

 与野党で、最も対立している点は、有期労働契約遵守法案で、野党共同案が期間の定めがない雇用が原則であり、 有期契約を「臨時的、一時的な業務」に限定している点である。政府・与党は、これでは「企業が期間労働者を雇えなくなり、 海外に逃げ出す」「社会の根幹を揺るがす」としている(12月20日付朝日新聞)。しかし、EUでは、雇用に期間の定めがな いのが当然になっている。EUでは、企業は労働者の権利を認めながら、国際市場競争で争っている。日本の企業もヨーロッパに 進出すれば、ヨーロッパの雇用条件に合わせてしか雇用はできない。日本企業は日本国内では、労働者の権利を抑さえつけてそ れを当たり前にしている。トヨタは09年3月期の業績予想を1500億円の赤字に修正したが(12月22日)、本誌今号 の福井工氏の文章で見ても同社の内部留保は12兆6000億円、役員報酬は平均1億2200万円である。日本の労働者を抑圧し、 外国の労使の足を引っ張って、巨万の富を蓄積していると言われても仕方ないだろう。日本でも、かつては有期雇用には制限が あった。規制緩和でその枠を大きく外してからおかしくなったのである。もう一度規制すべきである。

 そのほか雇用保険の適用では、野党案では、基本的に働くすべての人を加入させるとしているが、政府・与党は6カ 月以上の雇用見込みのある者に限定している。

 社民党は緊急雇用対策本部(本部長・福島みずほ党首、事務局長・近藤正道参議院議員)を設置し、政府への申し入 れのほか、厚労省からのヒアリング、派遣切りの実態調査(トヨタの本拠で、非正規労働者の解雇が全国の13%、3万人 〈08年10月から3月見込み〉で最悪の愛知県や、日本経団連の御手洗会長のキヤノンが1100人の非正規労働者の首を切 った大分県で)を行い、雇用促進住宅の視察、非正規労働者の相談ホットラインなどを行ってきた。さらなる取り組みの強 化を期待したい。

 なお衆議院で否決後、野党は通常国会に雇用、住居を確保する緊急決議案を提案しようとしている。