「進歩と改革」No.680号    --2008年8月号--


■主張 洞爺湖サミットと福田ビジョン



 7月7日から9日まで、北海道洞爺湖で先進八カ国首脳によるサミットが開かれる。今号はサミット前に編集から校正まで終わり、読者の手に届くころにはサミットは終わってしまう日程なので、ここでサミットを取り上げるのはあまり適当ではないのだが、見送るわけにもいかない。可能なかぎり問題点を追ってみたい。

 今年のサミットは地球環境を主要議題にすると言う。1997年、京都会議で採択された、京都議定書は2005年2月に発効、08年(今年)から12年までを第1拘束期間として、地球温暖化防止のためCO2など六種類の温室効果ガス排出について、先進国全体で1990年比5・2%を国別に削減を課している。だが、この決定はアメリカのブッシュ政権が、中国、インドなどが入っていないことを理由に脱退してしまったことで、大きくその効力を損じられた。議定書は発効したが、世界最大の排出国アメリカ(21・4%)を除いては温暖化防止の達成は困難と見られ、ポスト京都議定書にアメリカをどう前向きに参加させるかが大きな課題となっている。同時に、先進八カ国の協議は重要であるにしても、世界規模の問題を先進国だけで(中国、インドなどの代表も招請するにしても)決定できるのか、という疑問も投げかけられている。

 たとえば、いま地球上で、3秒に1人、貧困や病気で人命が失われている、世界の飢餓人口は8億1500万人、重債務貧困国は42カ国(02年3月、外務省)と言われるなかで、先進8カ国は世界の貧困に対して責任を問われている。『週刊金曜日』6月20日号、栗原康氏によれば先進8カ国の人口は世界の14%に過ぎないにも拘わらず、GNPは世界の3分の2、CO2(二酸化炭素の排出量は47%、エイズも含めた医薬特許権は80%、軍事支出は世界の60%をしめ、世界の政治、経済を支配する力を持っている。だが、G8サミットは国際法に基づいた会合ではないし、国連のような国際機関から権限を任された集まりでもない、「非民主的な会合」だという。
 それでも、前向きな意思統一ができればよいが、ブッシュ大統領は世界戦略の破綻、米経済の見通しは悪く、残す任期は半年、福田首相も支持率は極端に低く、いつまで持つか、フランスのサルコジ大統領も統一地方選挙で惨敗、スキャンダルも出ており、中国も大きな見通しとしてはさらに台頭しようが当面は四川大地震で大変という状況で、どれほどの合意がえられるか。


福田ビジョン、自民党方針、社民党の方針

 福田首相は6月9日、「低炭素社会日本をめざして」と題する“福田ビジョン”を発表した。このビジョンに基づいてサミットをホスト役として、リードしたいとの意気込みである。続いて自民党は6月12日、温暖化対策を決定した。福田ビジョンは2050年までに二酸化炭素など温室効果ガスの排出を今より60〜80%減らす(長期目標)というが、2020年までの中期目標は具体的数字を示さず、日本の排出量を05年より14%削減可能としている。日本のマスコミもより短期の目標に具体性を欠き、05年比14%の数字は小さすぎると批判(6月10日、朝日社説)、ドイツで開催中の気候変動枠組み条約の特別作業部会に参加していた環境保護団体は後ろ向きの温暖化対策として、「化石賞」を贈ったという。残念ながら、福田首相もわれわれも長期目標を達成すべき年までは生きていない。目標が達成されなくても、首相は責任を問われようがないのである。

 福田ビジョンでは、「革新技術の開発」として、「次世代原子力発電技術などの技術開発ロードマップを世界で共有し」との記述がある。(6月10日付日本経済新聞、要旨)自民党の温暖化対策はさらに露骨に、2020年までに九基の原発の運転開始、既存原発の稼働率向上をうたっている。日本経済新聞の6月5日付け特集は電気事業連合会を含む特別協賛の広告頁で、茅陽一氏の講演における発言として「日本では排出の4割を占める発電において、CO2を出さない原子力の比重を高めることが重要。05年段階で26%であった原子力の比率を40%に上げること」「世界的に……原子力の重要性について改めて見直され、現在は原子力ルネッサンスというべき潮流となっている」と持ち上げている。

 だが、原発をめぐる日本の現実はどうか。能登半島地震と志賀原発臨界事故、刈羽原発事故など、重大事故の相次いで発生、その隠蔽や記録改竄、虚偽報告、地震国日本で想定値を大きく上回る地震の発生、地震断層上に建設された原発など原発をめぐる不安は大きく、電力会社のモラルも問われている。運転を再開できない原発も少なくない。放射性廃棄物処理と保管の問題も解決されていない。CO2削減に名を借りて、別の環境不安を抱える問題をこの際一挙に公認してしまおうというのはあまりにも暴挙ではないか。

 また自民党方針は、家電対策として省エネ家電購入の促進、電気消費量の多い中古家電を再利用できないように措置(6月13日付朝日新聞)とあるのも家電業界への買い替え需要の強制的促進の臭いが強い。まともな環境対策として必要な需要であれば、企業への発注も結構であるが、便乗商法への権力の利用であれば問題である。

 さらに、福田ビジョンも含めて植林が見当たらないのはなぜか。日本は、アマゾンの大森林を砂漠化させた元凶と言われているだけに、国際的にも植林に積極的になるべきだし、国内でも必要なはずだ。自給率四割、廃棄食糧25%という日本の食糧事情も、世界の飢餓人口を考えると、これでいいのかと思わざるをえない。

 社民党は6月19日、「地球温暖化防止戦略〜いまこそエネルギー戦略の大転換を}を発表した。

 社民党は温室効果ガスの中長期目標として、2020年に90年比30%減、50年80%以上減を掲げている。福田ビジョンを上回る20年の目標であるが、そのための政策手段として、自然エネルギーの導入促進を大きく掲げ、国内排出量取引制度の導入、環境税(炭素税)の導入その他を主張している。 自然エネルギーは導入率を20年に20%、50年に50%とし、太陽光発電、風力、国産バイオマスなどに求め、学校、官公庁などの公共施設や大規模マンションへの太陽光発電設備の設置拡大などを進め。自然エネルギー電力優先の新たなルール作りを求めている。また「固定価格買取制度」の創設と発・送・配電の分離をも求めている。国内排出量取引制度は発電、鉄鋼、セメントなど約百五十の工場、発電所が日本全体の51%のCO2を排出している現状からその規制をこの制度で行おうとしている。家庭部門の排出量は5%に過ぎないので大口排出量の規制は当然と言える。これに対し、小規模排出源を対象とするものとして考えられているのが環境税(炭素税)で、消費者に排出削減を促し、税収は一般財源に入れるが、逆進性を持たないように配慮するとしている。社民党は、その他の削減手法のなかに森林、水田の多面的機能を守ることなどを入れている。

 サミットでは、福田首相は自らの「ビジョン」を中心に対応するだろう。しかし、それで成功するとは考えられない。その後の論議のなかで、社民党の政策が積極的に活用されることを期待したい。