「進歩と改革」No.624号
--2003年12月号--
■主張
二つの国際会議、APEC首脳会議とイラク復興支援国会議から
10月後半に日本にも関係の深い二つの国際会議が開かれた。一つは10月17日から21日までタイのバンコクで開かれたアジア太平洋経済協力会議(APEC)であり、もう一つは10月23日から2日間スペインのマドリードで行われたイラク復興支援国会議である。いずれもアメリカを中心とする価値観とこれに追随する日本外交の問題点を様々な側面から見せつけられるものとなった。
APEC、テロ対策の押しつけにくすぶる反発
まずAPECについては、ブッシュ米大統領は、その前後に日本、フィリピン、タイ、インドネシア、オーストラリアを歴訪し、各国首脳にアメリカに協力するよう圧力をかけた。ブッシュは「テロリストの脅威を完全に打破するまで攻勢に出る」「APECはテロを議論する大変いい場だ」と一方的に位置づけ、「すべてのアジア諸国は決断に直面している。テロ支持か、無視か、戦うかだ」と発言している。これはアメリカに従わない者は許さないという示威行為である。アメリカ的価値観の一層の受入れを迫ったのである。
その結果、「バンコク宣言」には「国際テロと大量破壊兵器の拡散は、APECの自由で開かれた経済への直接的、重大な挑戦である。国際テログループは速やかに根絶する」などの文言が盛り込まれた。
しかし、すべてのアジア諸国がアメリカの価値観を忠実に受け入れているわけではない。経済会議を「安保会議」に変えようとするアメリカに対し、マハティール・マレーシア首相は19日の昼食会で「APECは貿易や投資と関係のない方向に進んでいる」と正面から批判したし、「米国が安保ばかり強調するなら経済は米国のいないところでやる」と言うASEAN(東南アジア諸国連合)関係者も板(10月23日付日経新聞(地球回覧)。中国は胡錦濤国家主席が「アジア太平洋地域は多様性に富み、政治制度や経済モデルは国によって違う。これがこの地域の活力になっている」とアメリカの価値観の押しつけを牽制した。マハティール氏は、ブッシュの自由貿易の名でアメリカの産品を買わせ、途上国の産品を買い叩く態度に「われわれに必要なのは自由貿易でなく、公正な貿易だ」と発言、会議の前日にも、カンクンの閣僚会議決裂に関し「富む者と貧しい者に平等な新しい貿易(交渉)の枠組みを提案したい」とも述べた。オーストラリアのハワード首相は日本の小泉首相とともにブッシュに最も忠誠を誓っているが、国内では強力な反戦デモに見舞われている。
小泉首相は、北朝鮮の「安全保障」をめぐって「アメリカは米朝二国間の協議に応ずる気はないが、六者協議でどう話し合えるか日中韓と協議したいと思っている」と各国に伝えて、ブッシュの地ならし役を買って出た。が、「拉致」問題については、懸命の根回しにもかかわらず、「バンコク宣言」に盛り込めず、議長の口頭総括でも「関係者のあらゆる懸念に対処しつつ」という言葉が入ったとしているが、なんのことか分からない程度の表現に過ぎない。ブッシュへの忠誠のわりには、アメリカから後押しがあったようには見えないし、「対話と圧力」という方針も行き詰まりは明らかである。先の六者会談でもそうだったが、各国に頼んでまわって、包囲網を形成したいようだが、直接話し合いの努力をせず、他力依存では何も開けないのではないか。
日本農業を根底から押しつぶす小泉発言
また、自由貿易協定(FTA)をめぐって、小泉首相は閉会後の記者懇談で、「農業鎖国はできない。農業関係者もわかっているのではないか」と発言している。これに合わせて、『日本経済新聞』は10月24日付で農水省が日本農業の競争力を高めるため、大規模農家を育成して効率化を進める、そのため稲作農家への生産補助金の一部を一定規模以上に水田を持つ農家だけに配分する、零細農家が土地を手放せば集約が進む、稲作以外の農家でも一定以上の規模に限って所得補償を検討する、企業の参入は現在特区での土地借用に限られているが、これの拡大をはかるという考えを報じている。
しかし、中山間地の多い日本では大規模化には限界があり、少々の大規模化では外国に太刀打ちできない。企業の参入を認めれば、農業の荒廃が進み、日本農業が根底から潰れていく危険性が高い。世界の人口増、食料不足の予測のなかで、自給率の向上の努力が必要な時に、逆行する方向となる。APECというよりも、穀物メジャーを抱えるアメリカが自由貿易の名で、農産物の輸入を迫っているだけに、小泉首相の態度はここでもアメリカに追随するものではないか。農業のためには、環境に占める農業の役割の意識化、EU並みの生産者所得補償、地産地消の奨励などすべきことは他にもある。
突出する日本の負担と慎重に大義をまもるEU諸国
イラク復興支援国会議は、07年までの4年間に「少なくとも330億ドル」の資金提供の表明があったとして閉幕した。参加国数が71、出席閣僚28人を数えたことで、アメリカは「成功」と宣伝している。
しかし、世銀、国連が試算した必要資金は07年までの4年間に550億ドルで、メドが立ったのは必要額の6割、アメリカ自身が「来年の大統領選まで乗り切る分は確保した」(ブルッキングス研究所Iダルダー上級研究員、『日本経済新聞』10月25日付)という内向けの評価だ。しかも、資金の提供は米国の230億ドル、日本が50億ドルと二カ国で77%、世界銀行が30〜50億ドル、IMFが25〜42億ドルの融資計画で、この二カ国二機関で資金提供表明額の93%を占める隔たり方である。米政府の復興資金の一部に当てこむイラクの石油代金収入も危ぶむ声がある。
国連のイラク新決議は全会一致だったが(10月16日、安全保障理事会)、ドイツ、フランス、ロシアなどは復興支援国会議には外相を出席させず、ドイツ、フランスは欧州連合の共通予算からの拠出は認めたものの、国別の拠出は見送った。ロシアは企業による40億ドルのイラク投資の用意を表明するに留まった。イラク戦争を支持したイギリス、イタリア、スペインは拠出に応じたが、日本に比べてもはるかに低額にとどまっており、パウエル米国務長官の「国際社会の結束を示した」という言葉は額面通りには受け取れない。
日本の突出ぶりが目立つが、ここで見ておかねばならないのは、欧州諸国の慎重論の背景にある大義名分と政治性だ。欧州諸国の態度には利権絡み、国益絡みの指摘もあるし、それを全面的に否定する必要はない。しかし、フランスは「継続的に投資するためには、イラク人が完全な主権を持つ政府が必要だが、主権委譲が遅れていることを問題にし、また「米英の暫定当局が『イラク開発基金』を通じて事実上管理する石油収入の透明性」を問題にしている。これは否定し難い大義である。アメリカ主導で選ばれた統治評議会や暫定内閣の正統性への疑問も出されている。こうした指摘は国連の新決議をめぐっても、ドイツ、フランスが一貫して主張していたことである。しかも、イランの核開発について、IAEA(国際原子力機関)の査察を強化する「追加議定書」にイランの調印を促した背景にはドイツ、フランスの果たした重要な役割が報じられており、欧州諸国の大義を持って、しかも現実を踏まえたしたたかな外交姿勢は、アメリカに追随するだけで、独自にはほとんど何のポイントも稼げない日本外交と大きな差があると言わざるをえない。
日本の軍閥を想起させる米の広報計画、矛盾だらけの自衛隊派遣
5月1日のブッシュの戦闘終結宣言以降のイラクでの米兵の死者は事故を含めると217人に達したという。遂にブッシュはイラクは安全ではないと言いだした。米国務省は広報に力を入れるとして、発表された報告書「考えを変え平和を勝ち取る」のなかには、英語教育の拡大や米書籍のアラビア語への翻訳強化まで含まれている。日本が植民地や占領地で日本語の使用を押しつけたことを連想させる。しかし、イスラム教が不浄とする犬によるイラク人女性職員のハンドバッグの強制検査からバグダッドでストライキが起きたという報道がある。英語教育の前にアメリカがイスラム教とアラビア語を学ぶ方が先ではないだろうか。
日本はそういう所へ自衛隊を派遣しようとしている。自衛隊が行くのは安全な所だというが、ブッシュ自身が危険を承知で来いと言っている。安全な所で、民生支援ならNGOを支援した方がよほどいい。なぜ自衛隊でなければいけないのか。小泉首相のやろうとしていることは矛盾だらけである。