「進歩と改革」No.623号    --2003年11月号--


■主張 小泉第二次改造内閣と総選挙の課題



アメリカに顔を向け、アジアを見下すタカ派が出そろった


 自民党の総裁選挙は、9月20日、小泉首相は圧勝は決着した。小泉首相は直ちに自民党3役の決定と、内閣改造に着手し、同22日、小泉第二次改造内閣が発足した。また、首相は10月解散に言及、これまで推測されてきた10月10日解散、11月9日投票の衆議院総選挙が決定となってきた。

 ここでは、小泉自民党総裁の再選と第二次改造内閣の発足をふまえて総選挙の課題を探っていきたい。

 小泉首相の人事で見た場合、重要と思われるのは、安倍幹事長の起用と、竹中経財・金融相の留任であろう。安倍幹事長の起用は選挙向けの「顔」と言われているが、拉致問題にからんでタカ派的な強硬発言や「日本の前途と歴史教育を考える若手議員の会」の事務局長を務めるなど右翼的な政治姿勢が顕著なことが問題であろう。また、竹中経財・金融相の留任はアメリカが評価してるように、イラク派兵だけでなく、経済面においてもアメリカに奉仕していく人事と言えよう。拉致議連の中川会長、小池副会長の入閣、石原東京都知事の右翼テロ容認発言とも合わせて、アメリカには追随しながら、北東アジアではタカ派的排外主義を強めるという方向が政策、人事両面で鮮明になってきたのではないか。総選挙でこの危険を有権者が見極めることができるのか。「改革」が進まなくても「改革はやるんです。一貫してます」という小泉首相の棒を呑んだような単純な発言の繰り返しにだまされるのか、ここがポイントになってこよう。

二大政党対立の演出で真の争点は明らかになるか


 さてそこで総選挙であるが、争点にふれる前に、総選挙がたたかわれる土俵の設定に問題を指摘しなければならない。

 一方に「人気」の小泉、安倍と、他方に民主党と自由党の合併による大野党の出現ということで、総選挙の報道は、別項「総選挙は小泉・菅の人気投票になる? 自民党総裁選のもたらすもの」(大原恵氏)に見るように、二大政党対立政治の演出の下で、小泉首相と菅直人民主党代表の人気投票的な報道になっていく可能性が強い。そこでは、社民党、共産党などは問題外の党として軽く扱われていくだろう。

 しかし、そうした報道予想は総選挙の真の課題から有権者の関心をそらすことになっていくのではないかと憂慮される。たとえば、小泉首相は2005年には自民党が改憲の提案をすべきだと明言し、自民党総裁選の他の三候補も憲法改正を認める発言をし、自民党は改憲で足並みをそろえたし、たとえ首相が選挙前に任期中の改憲はないと争点の回避を図ったとしても、今回の総選挙が改憲をめざす政治地図の決定になることは明らかである。

 ところが、野党第一党の民主党の「マニフェスト」(第一次案)には改憲に対する同党の政治姿勢も方針も一言もない。国政の根本を規定する憲法について、これで小泉か菅かの人気投票をやってどんな意味があるだろうか。

 自衛隊のイラク派兵は年内にも実施と伝えられているし、集団自衛権、ミサイル防衛網と日本の平和、憲法にふれる問題は政治日程に目白押しだが、イラクに非戦闘地域があるかといった重要ではあっても部分的な問題への言及に止まり、有事立法に賛成し、改憲への方針を(少なくとも現段階で)明らかにしえない民主党が小泉政権の安保防衛政策を根底から批判することは期待できないし、そのような民主党に自民党との対抗価値がどれほどあるだろうか。方向が同じで、程度の違いしかない二大政党は、いつでも挙国一致の一大政党になってしまう危険があるのではないか。そのときになって、選択肢がなくなったとあわてても遅いのである。

 ついでに触れておくと、民主党の菅代表は社民党にも新民主党への合流を呼びかけ、社民党が小泉政権に対する選挙協力にとどめ、合党を断ると、岡田民主党幹事長は「社民党が候補を立てすぎだ。異常だ」と非難し、民主党は衆議院の比例区定数を80減らす案を同党のマニフェストに盛り込んだ。政権交代可能な二大政党にするためというのが、その名目だが、民意を反映するのに選挙制度を変えて人為的に中小政党を切り捨て、無理やり二大政党にするのが、民意の反映と言えるだろうか。現行の選挙制度でも大きな問題があることは本誌はすで何回も指摘してきた。民主党の幹部は民主主義がわかっていないのではないか。

 もう一つ、ついでに触れると、9月27日付『朝日新聞』の「私の視点」欄で、後房雄名古屋大学教授は今回の総選挙を「政権選択選挙」として、「社民、共産両党は生き残りのためだけに小選挙区に独自候補を立て新民主党の足を引っ張るのか。自民党政権存続に手を貸すような・・・」と述べているが、これも有権者の政党選択権を人為的に切り捨てる論理で、そんなことをしてできる二大政党・政権交代にどのような期待ができるのか。

 仮に有権者の選択が、自民党4割、民主党が3割、その他の与野党が合わせて3割の議席であったとすれば、その結果を受けて、政策の話し合いで政権の組み合わせが決まる方がよほど民意の反映になるのではないか。「政権選択選挙」の名で、二つの党以外の党の存在を奪うような非民主的なことをしてはならない。

憲法を含め「国のかたち」をどう決めるかこそ第一の争点
 

 争点の第一は、憲法を含む「国のかたち」をどうするか、である。そこには、アメリカ追随をやめ、北東アジアの緊張激化を避けて、平和なアジアをどうつくっていくかという外交問題や、イラク派兵、ミサイル防衛網、集団安保といった安保・防衛問題、国民の閉塞感を排外的なタカ派発言でそらせ、戦後民主主義を否定していく傾向の克服なども含まれる。安倍自民党新幹事長は「集団的自衛権行使を可能とする憲法改正」を政治目標に掲げる政治家でもある。

 小泉首相がなによりも頼りにしているアメリカは、9月23日から始まった国連総会でも、その国連無視の単独行動主義をアナン事務総長に「国連憲章への挑戦」と正面から非難され、各国首脳の発言でも続々と批判が噴出した。それでもイラクへの自衛隊派遣を急ぎ、アメリカの望むままに集団自衛権(アメリカとの軍事同盟の強化)を公認しようとするのか、小泉首相は強いアメリカについていれば安全と思っているかもしれないが、アメリカにはアフガニスタン、イラク侵攻を無理の連続で貿易、財政の赤字が再び拡大し、大きく歴史的に見れば、唯一の超大国アメリカの後退はすでに始まっている。

 いまこそ社民党は護憲の党としての存在を明確にして訴えるべきである。今日、社民党を消してしまおうという様々な動きは実は、後退を始めたアメリカにくっついている一部権力者にとって社民党の存在が一番気になることの現われである。社民党は自信を持ってがんばるべきである。

小泉「改革」がもたらした経済の悪化を明らかにし、克服策の提示を


 争点の第二は、小泉「改革」の惨憺たる結果を明確にし、それに代わる経済政策を提示することである。

 マスコミは小泉「構造改革」が進んでいないことは言っても、それがすでに破滅的結果をもたらしていることは明らかにしない。そのために抵抗勢力が悪いとか(自民党の多数にある利権政治に既得権擁護はもちろん否定すべきだが)、小泉首相自身は空くまで「改革」をめざしているとの幻想を残したり、争点を「改革」のテンポの問題にすりかえたりする結果になっている。

 しかし、問題はもはやそのような次元ではない。小泉内閣の強きを助け、弱気を挫く「改革」政策の結果、失業者は増大し、自殺者も大量に出て、無権利状態の不安定雇用労働者は増え、長時間残業不払い労働は拡大している。しかも、長期不況の出口は一向に見えてこないのである。

 その一端を数字で示すならば、小泉政権発足時の失業率は4・8%であったが、今年7月には5・3%(8月5・1%)に拡大している。自殺者は3万人に打ち、経済的理由によるものが7000人をしめている。年金給付額は0・9%のマイナス、サラリーマンの医療費負担は2割から3割に増え、勤労者世帯の実収入は平均マイナス27万円、労働法規の改悪さえ行われ、その深刻な労働実態は、本誌でも労働相談の報告として掲載している通りである。

 そして問題は、こうした犠牲の上に強行される竹中経財・金融相による不良債権処理策である。商業紙の伝えるところによると、5月以降の株価上昇の原動力となったヘッジファンドの幹部が買い増しの姿勢で、日本の企業調査のために9月には続々と集中的に来日するという。小泉首相は外国の投資家が魅力を感じる金融市場でなければならないと述べているが、そのような一般論はごまかしではないだろうか。ヘッジファンドの関心はマネーの吸い上げしかないだろう。企業に収益を上げさせて、その利を持ち帰るためには、日本の労働者がどうなろうと、消費の質がどうなろうと、お構いなしではないか。アメリカが竹中経財・金融相の留任を強く要求したのは、不良債権の処理を急がせて、日本の金融市場をヘッジファンドに開放させるためではないのか。

 経済の国際化は避けられない流れだが、その中で産業を振興させ、国内の雇用を確保し、消費者の生活をよくする策を講じなければ意味がない。本誌はこの間、あるべき経済政策としての社民党の雇用拡大策を8月号(植田むねのり代議士談話)で、労働三法の改悪についても8月号の鳴海レポートで、医療の抜本改革については中西・社民党副党首の談話などで伝えてきた。年金については、社民党が二段階にわけた「安心支給宣言」を発表している。ここではくわしく紹介する余裕がないが、『社会新報』10月1日付1面、さらに近く発表される同党の総選挙政策を参照していただきたい。勤労者市民が安心して暮らせてこそ、閉塞感を右翼的に突破する危険な方向を克服できる。

憲法を守る市民的な主体の形成が必要


 今回の総選挙は、日本の「国のかたち」を変えられる危険に直面した選挙である。なし崩しに改悪されてきた憲法体制が大きく変えられていくかもしれない重大な選挙である。小泉首相のごまかしの「改革」姿勢や、マスコミの流す二大政党対立に演出に目を奪われず、どこまで有権者に理解してもらえる訴えができるか、そのなかで、単に社民党が生き残るかどうかではなく、憲法と暮らしをまもる市民的な主体をつくっていくことにつなげるかどうかが問われる選挙となるだろう。