「進歩と改革」No.601号    --2002年1月号--


■主張 深刻化する雇用情勢と労働組合の課題


最策の失業率、熟成するファシズムの温床

 2001年9月の完全失業率が5・3%と最悪の数字を記録し、同月の完全失業者数は357万人で前月比37万人の増加に達した(10月は5・4%に更新)。民間大手企業にリストラの寒風が吹き荒れ、下請・系列企業は玉突きでさらに過酷な事態となっている。特殊法人には、「小泉改革」で廃止・民営化の脅威が押し寄せている。

 さらに今後の企業の人員削減計画は、東芝の1万7千人、日立製作所の1万1千百人、松下電器産業の8千人をはじめ、上場82社だけで12万人という集計が出ている(「日本経済新聞」2001年11月18日付)。もちろん、金融機関の不良債権処理の強硬が進めば、さらに倒産やリストラ、首切りが吹き荒れることになろう。

 その一方で、パート、アルバイト、派遣など「非正規労働者」(「連合」のいう「非典型労働者」)が増え続けている。総務省が発表した01年8月の労働力調査では、その数は1317万人を数え、前年同月比64万人の増であり、総数のうち972万人が女性となっている。同じ仕事をしていても、賃金は低く、社会保険にも加入せず、労組にも入っていない人が急速に増えているとみられる。

 すでに派遣労働者に対する規制は大幅に緩和されたが、企業側はさらに労働側が求めている解雇ルールの明文化(判例が出ている、@人員削減の必要性、A解雇回避の努力義務、 B対象者選定の合理性、C手続きの合理性の4条件に加えて、違反経営者に対する罰則や解雇された労働者の再雇用の制度化など)に対して、逆に解雇しやすい条件の拡大を狙っている。 

 今日の労働情勢は、単に失業者が多い、再就職が難しい、自殺者が出ているなど直接的な深刻さだけでなく、雇用・労働構造が大きく変わり、無権利の労働者が拡大している点でも危機的な状況である。

 失業はファシズムの温床とも言われる。失業が拡大している一方で、 歴史修正主義者の短絡的な主張や右翼的な政治家がわが者顔にのさばってきていること、野党である民主党にさえ少なくない若手に戦争の恐さを知らない原理主義的な言動が目立つこと、国会の形骸化などは、閉鎖的な心理のなかで、情勢次第で、この国がいつ突っ走りはじめるかわからない不安を醸成している。

意欲的な「連合」方針と矛盾する企業組合の実態

 この状況に対し、労働組合の責任はもちろん大きい。「連合」は10月4日から2日間、開催した定期大会で、「2002〜3年度運動方針」を決定した。笹森会長が非常な意気込みを持って取り組もうとしていることも伝わってくる。決定された方針も、どこまで貫徹されるか、「連合」の力のほどは別にして、方針としては評価できる。問題は加盟組合はもちろん、周囲がどこまで一体となって力を発揮していけるかであろう。

 「連合」の新方針は、「"総論"21世紀ニュー連合"の役割と行動」のなかで、その要点が示されている。それによれば、もはや従来型の成長が見込めず、諸制度の行き詰まりが明らかななかで、市場万能主義の路線に対し、市民参加を基本に公共の役割を見直し、高度福祉社会の構築を追求する路線を対置している。そしてグローバル化と少子高齢化社会のなかで、「労働を中心とする福祉型社会」を目標に、企業には雇用を維持する社会的責任を、国には雇用を創出し、完全雇用を実現する責任を求めている。自らは、もはや高度成長を期待できないなかで、一人当たりの労働時間の短縮で仕事の分かち合いによって雇用の維持・創出をはかるワークシェアリングの実現を強調している。

 その前提として、就業形態によって処遇や差別のない均等待遇、サービス残業や長時間残業をなくすことを強調し、新しいワークルールづくりを求めている。「連合」は、「労働を中心とする福祉型社会」に向けて、男女平等。ノーマライゼーション、分権、環境と調和するリサイクル社会などを追求して働き方を変えるとし、「すべての勤労者を代表し、社会的な労働運動をすすめる」としている。これは基調として、正当なものであろう。しかし、加盟労組を含めて具体化され、徹底するには、その条件は非常に厳しいものがあると思われる。

 笹森会長は、雇用問題を中心に、討論集会や自治体への要請など全国を歩くとし、すでに地方の集会で、雇用を守るために一年かけて、ゼネスト体制を構築するともブチあげている。しかし、別の集会では、雇用問題担当の副会長は、自分の出身組合で、10万人を子会社に移し、そのうち6万人の給与をダウンという強烈な合理化をのんだばかりのせいか、全く精彩を欠いていたという。 

 先の大会で退任した鷲尾前会長は、挨拶のなかで「日本の基本的な労使関係・労働運動の理念である企業別労働組合の弊害が目立つ」と述べている(「WEEKLYれんごう」465号)。「連合」を構成する主力の民間大手組合の職場では、吹きすさぶリストラに、組合員は首をすくめ、もの言えば唇寒しという状態にあるのではないか。電機、鉄鋼は2002年春闘の賃上げを断念してもいる。「昨今、リストラの名の下に企業利益の観点からだけの安易な解雇が横行しているが、企業の社会的責任を放棄しているものであり、決して容認できない」という「連合」方針の総論に対し、胸をはれる企業組合がどれほどあり、その出身者が並ぶ「連合」幹部のなかでどれほどの人が胸をはれるのだろうか。今日の合理化に、個別企業ではハネ返せない、だから「連合」全体で、というのはわかるが、主力を構成する企業組合が企業別にリストラを容認していて、「連合」労動運動が盛り上がるだろうか。

 いまさら、太田・岩井時代の総評を引き合いに出しても、労働者の意識も違うし、労使の力関係も違うことはわかっているが、三池闘争で第二組合ができ、炭労大会が闘争継続か否で混迷したとき、太田議長は大会経にのりこんで「闘争継続」を訴える異例の、強烈な挨拶を行った。炭労大会は延長につぐ延長の末、闘争継続を決めた。三池の1万人の労働者が300日の無期限ストを行い、総評は全組合員が毎月カンパして、1万人の生活を支えた。

 そして、大闘争において最も難しいといわれる収拾においても、太田総評議長は組織上は一単組に過ぎない三池労組の大会にのりこんで、身体をはって説得し、収拾した。太田さんがそこまでできたのは、出身組合の宇部窒素労組に大合理化が出たとき、全面無期限ストで指名解雇を撤回させた実績からくる自信があったからだろう。出身組合でスジを通さないで、全体に向かって大きなことは言えるはずがない。そして、三池闘争のあと、炭鉱に首切り合理化がひろがろうとしたとき、太田さんは、自ら政策転換闘争を指導し、社会党・総評で闘争本部を設置、黒い羽の募金活動を行い、最終的には単労は全山ストに突入、北海道と九州からキャップライトをつけた炭鉱労働者10万人が上京し、総評が用意した宿舎から、国会デモを繰り返した。それで政府に離職者対策とか炭地振興策を実現させた。

 そういうことが、いまの「連合」にできるとか、期待することに実現性があるかどうかは別として、今日の状況は、当時をはるかに上回る深刻な状況である。そういうときに自治労(幹部)の不祥事はまことに遺憾というほかはない。問題は自治労だけとは思わないが、労組に対する不信を拡大した罪は大きい。それでなくとも、労組は組合員から信頼されていない。そのことは2001年夏の参議院院選挙でも立証せれた。組織内から候補者を立てた主力単産のほとんどが組合員数の三分の一かそれ以下の票しか獲得できなかった。

労働運動の新世紀に向けて、労組を組合員のものに

 もう一度、労働組合を組合員にものにしなければならない。総評が上り坂のころに、「幹部闘争から大衆闘争へ」というスローガンがあった。今日では「参加型運動」と言っている。「参加型」でよいのだが、言うは易く、実際には「全員参加」はできていない。

 太田・岩井時代の古いレコードを聞かされても仕方ない。もはや高度成長はないのだから、高度成長時代の運動感覚をふっきって、均等待遇、同一価値労働同一賃金を求め、本社員と非典型労働者の労働時間差以外の格差をなくしていき、仕事を分かち合う、そこに新しい時代の働き方と賃金のあり方を求めていこう、というのはもっともである。

 矛盾が深いだけに、小単位の学習など、一歩一歩積み上げることがいま求められている。企業組合の幹部を非難すればすむことではない。遠回りのようでも、目の前のある、すべきこと、できることを一つ一つ確実に行っていくことが重要であろう。