【進歩と改革2022年8月号】掲載


他国の発言機会を奪う日本  

 6月9日、国連総会で安保理非常任理事国選挙が行われた。日本は、立候補を表明していたモンゴルを断念させて、加盟国最多の12回目の非常任理事国を務めることになった。

 毎日新聞は「国際秩序の再構築に貢献するとともに、国連改革に向けた機運を盛り上げたい」「日本は05年にドイツ、インド、ブラジルとともに安保理改革を目指したが、頓挫した。あきらめずに機能を取り戻すための努力を続けるべき」と論評し、読売も05年に触れて「この失敗を教訓に、改革に前向きな勢力を結集することが大切」(ともに6月11日付社説)と指摘、憲法問題などでは対立する両紙が「国連改革」では一致した。また社説では取り上げなかった朝日も、ウクライナ戦争を止められなかった国連に対する日本人の失望が高まっている中で理事国となった等と述べる記事を掲載し、当選には疑義を挟まなかった。しかし、各紙が肯定的に言及した05年の安保理改革は、米英のイラク戦争を認めなかった安保理を、戦争容認へ向けることを狙っていた。

 しかも04年1月に米国のイラク大量破壊兵器調査団長が、「戦争が始まった段階で、イラクに生物・化学兵器の備蓄があったとは思えない」と発言して辞任し、10月にはブレア英首相が情報の誤りを謝罪し、05年12月にはブッシュ大統領も誤りを認めていた。そのような中でも、日本は自らの誤りを認めるのではなく、戦争を容認しなかった安保理の方を変えようとしたのである。

 もちろん、安保理の現状が良いわけではない。しかし日本政府の発言力がさらに強まることは、人権や軍縮の推進にも、多様な意見を反映することにも結びつかない。自国民である沖縄の訴えすら無視してきたことを見ても、自明のことである。

 それがまた甦った。しかも05年よりも報道各社の支持が高まり、日本が最多当選回数を誇ることにすら疑問を持っていない。

 国連の選挙は地域グループごとに議席が割り当てられ、グループ内で調整が行われた上で、国連総会等で形式的な投票が行われる場合が多い。特定の地域の議席独占を防ぐためで、安保理では、非常任理事国10議席が、アフリカ3、アジア太平洋2、ラテン・アメリカ・カリブ2、東欧1、西欧他2と決められている。その任期は1期2年で、再選はできない。しかし例外が多く、各国の当選回数の比較は必ずしも容易ではない。

 まず、1年ごとに半数が改選されるようにしたために、国連発足時や安保理議席の拡大時に半分の議席を1年の任期としたため、当選回数と年数が一致しない場合がある。次に、地域グループ内における候補国の調整がつかず、1回の任期を1年づつ2カ国で分け合った例がある。最近では、2017―18年の任期について西欧がイタリアとオランダで1年づつと分け合った。域内対立が激しくはないグループで、ともにEU加盟国であり、異例な出来事だった。

 さらに、加盟国の統合や分離もある。例えばエジプトとシリアが合併してアラブ連合を結成して理事国を務めた後に分離したり、チェコスロヴァキアとして理事国を務めた後にチェコとスロヴァキアに分離し、ともに加盟し直した上でそれぞれが当選したり、旧ユーゴスラヴィアが3・5回、7年務めた後に崩壊し、分離独立したスロヴェニア、クロアチア、ボスニア・ヘルツェゴヴィナがそれぞれ当選した例もある。

 また2013年にはサウジアラビアが当選しながら、安保理における二重基準を表向きの理由に就任を辞退し、代わってヨルダンが務めた。

 これらにどう対応するか、判断が難しいが、ここでは1年間の任期については0・5回の当選と数え、2カ国に分離した場合は分離前の任期を按分した(ただし旧ユーゴスラヴィアに関しては分離後の国数が多いこと、分離に際して激しい内戦が戦われたことなどから、按分を避けた)。これを見ると、特に、日本が属するアジア・太平洋は他とは異なる状況にあることに気づく。

 1回も安保理理事国となったことがない国の割合は、最小のアフリカ・グループでは16・7%、多いラテン・アメリカでも33・3%だが、アジアは中国を除いた52カ国中25カ国を占め、48%を超える。今回、立候補を試みたモンゴルも、1961年の加盟以来、1回も安保理に議席を得ていない。その機会を日本は、援助を利用して奪った。

 就任を辞退したサウジアラビアは当選1回と数えたが、国連原加盟国で地域の大国であるイランや、国連創設の翌年に加盟し、人口が7000万人に迫り経済成長著しいタイも、1回しか議席を得たことがない。国連発足2ヶ月後に加盟したイラク、人口が1億6000万人を超えるバングラデシュ、人口1億人に迫るベトナムも2回に留まる。

 また中東について代弁する国が限られており、ヨルダンが3回、シリアが3・5回留まるが、米国がしばしばパレスチナ・中東問題に拒否権を行使することや、近年のシリア問題などに対してロシアや中国が拒否権を行使していることをふまえれば看過できない事態を生んでいる。アフリカから、ナイジェリアの5回に次ぐ四・五回、エジプトが当選しているが、パレスチナ問題は国連が自ら作り上げたことを踏まえるまでもなく、この問題に対する代表権は損なわれていると言わざるを得ない。

 この一方で、少数の国が理事国を寡占しているのもアジアの特徴である。日本の12回に次いでインドが8回、パキスタンが7回を誇り、西欧最多のイタリアが6・5回、東欧最多のポーランドが5・5回とは大きく異なる。ブラジルが11回、アルゼンチンが8回、コロンビアが7回を競うラテンアメリカに似ているが、これらの国が国連原加盟国または創設から20日余り後に加盟したことを考えると、日本がいかに他国の機会を奪っているかが分かる。

 アジアの競争率が激しい背景には、90年以降、旧ソ連の中央アジア諸国や太平洋の島嶼国が国連に加盟したこともあるが、日本の当選頻度は大きくは減少していない。21世紀以降の当選回数はブラジルの3回に対して、日本は4回である。

 また議席を得たことがない国に配慮する傾向も見られ、2020年以降でも、東欧のエストニア、カリブのセント・ヴィンセント、東欧のアルバニア、アフリカのモザンビーク、西欧のスイスが初めて議席を得る。しかし、アジアは例外である。

 戦争と核兵器を支持する日本が各国の発言の機会を奪い続けている。しかし報道もそれを疑問に思わず、単純に当選を讃える。ここには政治感覚も、国際感覚も、またジャーナリスト精神のかけらもない。