【進歩と改革2022年1月号】掲載


極右が憧れる日本

 立憲民主が議席を減らして維新が伸ばした総選挙は、改憲派への支持が高いことを示して終わった。この選挙結果をめぐって、立民と共産の共闘の是非、立民の政策担当能力、選挙制度の問題など、さまざまな議論がなされているが、相変わらず、外交問題を課題としなかった/できなかった、政治家、ジャーナリズム、学者らのあり方は注目されていない。

 政権交代へ向かって旗を振っていた朝日新聞は、岸田政権が発足するとようやく、「外交・安全保障政策や改憲へのスタンスは、安倍元首相に近い」(21年10月15日社説)と、外交を問題にし始め、北朝鮮によるミサイル実験が選挙に影響を与える懸念が出ると、「力への傾斜を強める自民党の公約には危惧を覚えざるをえない」、「外交・安保 平和主義軸に戦略を」(10月21日社説)と言い始める。しかし、そもそも菅政権発足に際して、「菅義偉氏は安倍政権の継承を掲げるが、経済や外交で実をあげた側面はともかく」(20年9月16日朝刊)と、論説主幹の名で安倍外交の継承をむしろ評価していたのは朝日だった。

 現代の先進国においては内政では大きな差が出ない。新型コロナ、経済、少子化、格差是正など、いずれも世界中の国が直面していると同時に、特効薬はなく、多様な対策もない。このため、欧米諸国では地球環境や難民受け入れなどが争点になる。

 ところがそもそも日本はこれらの問題について消極的である。地球環境ではNGOから批判され、難民受け入れは先進国では最低水準であり、移民の受け入れも厳しく制限する一方で、都合の良い労働力として技能実習生等の制度は導入する。

 このためヨーロッパから見れば日本社会は極右状態にある。フランスの極右、エリック・ゼムールがテレビで日本を見習うべきだと主張し、9月28日には「40年間にわたって移民を拒否している日本がモデルだ。国内では失業率は3%、優れた生産性、貿易黒字、絶対的な安全で、刑務所にも自由な場所がある。要するに全てが我々に欠けている」とツィートする背景である。

 ヨーロッパの極右が日本を讃えるのは珍しいことではない。フランスの右翼「国民連合」党首のマリーヌ・ル・ペンの父親、ジャン=マリー・ル・ペンが大統領選挙の決選投票に残った2002年にも、彼はゼムールと同様の発言をしていた。

 彼が決選投票に残った背景には、右派のシラク大統領に社会党が協力する保革共存が続いており、支持者の反発をかったことがあった。シラク政権で首相を務める社会党のジョスパンに対する批判が、極右への支持を上回ってしまったのである。ル・ペンが高い支持を得ていたわけではなく、シラクは80%を超える得票を集めて再選された。フランス左派にとっては苦い経験だった。

 ジャン=マリー・ル・ペンは11年に引退し、娘のマリーヌ・ル・ペンが党首となるが、彼女は党の勢力を拡大するために穏健化を図り、15年には父を党から除名し、18年にはそれまでの名称だった国民戦線を国民連合に改称した。ところが、10月に行われた大統領選挙に関する世論調査で、マリーヌを上回る支持を集め、2位に躍り出たのがゼムールだった。彼はジャン=マリーが評価するジャーナリストの一人でもあった。穏健化した元極右よりも露骨な極右の方が支持を得たのである。

 人種差別的な言動で物議を醸し出しながら、テレビで人気を確立したゼムールは、やはりテレビで知名度を高めたトランプになぞらえられることが多く、フランス政治がアメリカ化していると言われる。米国リベラル派のニューヨークタイムズは、彼を「トランプにつながる」、「(米国で右派テレビ局として知られる)フォックス・ニュースと似ているCNewsで専門家として活躍し、人種的憎悪を煽ったとして2回制裁を受けたにもかかわらず、テレビで最も成功した人物の一人」(9月21日付)と評する。ここには、トランプ現象に苦しむアメリカのリベラルが、同様に社会の分断に直面するフランスに対して示す関心のあり方が示されていると言えよう。

 ゼムールはニューヨークタイムズの取材に応えて、自分とトランプの共通点を、「既成政党の外にいて、政治経験を全く持たず、さらには労働者階級の主要な関心が移民と貿易にあることを理解している」と述べている。トランプが、成長を続ける米国経済の中で産業構造の転換の中で取り残されてしまった人々を、票田として発見したことと同様である。

 もちろん、問題の表れ方はその社会によって異なる。日本では、左右を問わず保護主義的で、移民問題などが社会的に大きな問題となっていない。だからこそ、日本よりも民主化の度合いを強める韓国との関係を、安倍政権が意図的に悪化させて民族主義を煽ったことや、名古屋出入国在留管理局に収容中だったウィシュマ・サンダマリさんが死亡した問題などが、問われなければならない。

 念のために言えば、19年6月24日にも大村入国管理センターでナイジェリア人男性が死亡するなど、収容中の死亡は頻繁に起きている。さらに技能実習生のあり方を含む日本の入国管理は悲惨である。

 ここで、01年に中央省庁を全面的に見直す行革が行われた際に、改革のための議論すら起きなかったのが外務省と法務省だったことを改めて想起すべきだろう。日本の知的な停滞はすでに30年続いている。

 トランプ現象に苦しむアメリカのリベラルが、極右がテレビを通じて人気を確立するフランスの「アメリカ化」に注目する。そのフランス極右が手本とする日本では、トランプをノーベル平和賞に推薦する安倍が史上最長の政権となり、そのような外交姿勢を左派も支持している。言ってみれば、ゼムールが極右であるのなら、日本社会全体が極極右であり、安倍などは極極極右、朝日などは、党勢拡大のために穏健化した元極右、マリーヌ・ル・ペン程度の存在となる。だからこそ、自分たちを外の視点から見つめようとしない。

 そのような中で、ゼムールやトランプと同様にテレビにおける過激な言動で人気を得た橋下徹が立ち上げた維新が、自民党に代わる勢力として改革を訴える。スキャンダルにまみれた自民党に比べ、多少は清廉に見える上に、ゼムールやトランプとは異なり自治体での実績がある維新に支持が集まるのは、不思議ではない。そしてそれが、安倍に比べれば穏健な岸田に対する右バネとなる。

 自動車産業が転換期を迎え、アベノミクスのつけの表面化も懸念される。そのような中で日本がさらに右傾化すれば、それはまともに問題提示もできない左派の責任ではないか。