【進歩と改革2021年10月号】掲載


タリバンと日本右派

 米軍のアフガニスタン撤退決定は政府の急激な崩壊を招き、米軍の撤退を巡って大きな混乱も生み出した。新たに生まれるタリバン政府への不安が様々に語られるだけではなく、バイデン政権の行方、中東地域のあり方、イスラム原理主義の今後、さらには世界秩序の再編なども言及されている。しかし日本が積極的に関与してきたことも、右派政権の方向性がタリバンなどのそれと通じるものがあることは触れられない。そこで今回は、日本の右派政権の立場にたって、コラム風に書いてみたい。

 タリバンの皆さん。日本は約150年前に「近代化」しました。その後経済発展を成し遂げ、敗戦からも復活し、今も世界第3の経済力を誇っています。ただし、決して単純に欧米を模倣したのではなく、日本独自の方法を模索した結果なのです。

 欧米は近代化=脱宗教と型にはめたがります。しかしもともと尊皇攘夷、つまり宗教的権威だった天皇の復活と外国排斥を唱えていた私たちは、まず強力な宗教国家を作ることに着手し、それまで千年以上続いた伝統的な宗教のあり方を否定し、新たな宗教を作ったのです。

 日本には6世紀に仏教が伝わったされます。それまでの日本には明快な教義を持たない自然崇拝の宗教があったと思われますが、ここに体系化された教義を持つ仏教が伝わり、両者が融合したのです。私たちが最も重視する神社である伊勢神宮にも、早くも698年に神宮寺、つまり神社に併設される仏教寺院が造られています。最古の歴史書とされる古事記が編纂されたのが712年、「国書」として安倍前総理や菅現総理も尊重する万葉集の成立が700年代後半なので、日本文化は神仏混淆の下で形成されてきたといえます。

 しかし、新たな政府には純粋なイデオロギーが必要でした。そこで私たちは強引に寺と神社を分離して神社を保護する一方、寺から権限を奪い、一部を破壊しました。それまでの神社では仏像を拝んでいたのですが、これを破棄させ、神が宿る鏡などを新たに作り、配布もしました。

 えっ、タリバンの皆さんと共通する考え方ですって。偶像崇拝を禁じていたはずのイスラムにも歪みが生じていた上に、他宗教に寛容なのがイスラムなどという伝統があったので、純粋な状態に戻さなければならず、異教の宗教遺跡も破壊したと。私たちが愛する明治と全く同じです。

 私たちは神道を国教とした上でキリスト教も抑圧するつもりでした。しかし欧米がうるさい。そこで神道の国教化は断念しましたが、妥協はしません。神道は日本人のあり方そのもので宗教ではないと称し、全国民を神社に属させた上で、神主を公職に準ずるものとしたのです。日本人は信仰の自由はありますが、日本人である以上、神である天皇を敬い、神社に参拝するのは当然です。イスラムも生活そのものですって。なるほど、私たちはよく似ていますね。

 欧米の連中は近代化の要素として産業革命と民主化を挙げます。しかし私たちは産業革命に積極的に取り組む一方で、民主化には慎重に対応しました。国の基本法の制定や国会開設も必要となったのですが、基本法を表す用語からして工夫しました。古代の皇族の一人で、中国から独立する姿勢をとったとして今も私たちが重視する、聖徳太子の言葉である憲法を用いました。そういえば574年生まれとされる聖徳太子と、570年頃に生まれた預言者ムハンマドは同時代人ですね。皆さんへの共感がますます強まりました。

 そして、天皇の絶対的な権限を定めた上で、権利等については「法律ノ範囲内」で認めました。皆さんがイスラム法の範囲内でと表明しているのと同じです。

 外国排斥も捨てたわけではありません。単純に排斥を叫ぶだけではなく、日本の偉大さを強調したのです。このような教育を進めた結果、国民は自爆攻撃にも応じるようになりました。この点については、皆さんよりも私たちの方が先輩なのですよ。少年兵、毒ガス兵器等の使用、アヘン栽培等も、私たちが先駆けです。

 しかし少々調子に乗りすぎ、敗戦を迎えてしまいます。ただし、それでも天皇制は守り抜きました。天皇制さえ維持できれば、これまでの経験が生かせます。つまり、民主化はほどほどにした上で経済発展に力を注ぐのです。経済さえ良くなれば国民は文句は言いません。高度成長期、バブル経済期、最近ではアベノミクス、いずれにおいても国民は私たちを強く支持してきましたから。

 今の日本は自由と民主の理念を欧米と共有しているですって。とんでもない。私たちは、私たちの価値に合わない欧米の基準は拒絶します。私たちの価値観にはむしろ皆さんと通じる面が多くあるのですよ。

 例えば私たちは死刑を支持します。皆さんもですか。それはうれしい。

 女性の権利も同様です。行き過ぎたジェンダー論には安倍前総理を先頭に反対してきました。この結果、2021年3月に世界経済フォーラムが発表したジェンダー・ギャップで、日本は120位で、先進国では群を抜いて低いのです。アフガニスタンは最下位の一五六位でしたが、心配しないでください。えっ皆さんは最下位ではなく、イスラム法の範囲内で女性の地位を認めることで逸脱が強まる方が心配なのですか。大丈夫。制度と実態は異なります。

 日本は教育達成度では92位です。しかし、経済参加機会では117位と教育に比べて大きく低下しています。所得も男性に比べて女性は43・7%低い。政治参加に至っては147位、111位のアフガニスタンを大きく下回っています。教育機会は多少平等に近づけても、実態として制約することができるのです。

 同性愛についても欧米が批判するのですか。心配しないでください。日本でも最近はLGBTなどと言う連中が増えてきましたが、私たちは法律の成立を阻止しました。家族制度は天皇制の根幹ですから。

 報道の自由もやっかいですって。これもご心配なく。国境なき記者団の報道の自由度ランキングでは日本は先進国最低です。実は2010年に、民主党政権時代に11位だったことがあります。しかし13年に安倍政権が成立してからは50位を上回ったことがなく、16年と17年には72位でした。では民主党政権と安倍政権のどちらを国民が支持したと思いますか。もちろん安倍政権、私たちです。コロナがなければ私たちに政権担当能力が無いこともばれなかったのですが。

 えっ。日本は米軍を支援してきた、防衛副大臣が「私達の心はイスラエルと共にあります」とツイートしたのは許せないですって。……それについてのお答えは差し控え……