【進歩と改革2001年7月号】掲載


小泉政権の「改革」の中味―ブッシュ政権に期待される理由



1、"小泉人気"の恐さ

 支持率90%だという。森内閣とどれだけ中味が変わったというのか。自民党内総裁選を国民全体による選挙のように演出したマスコミ報道の影響がたしかに大きい。小泉首相は、首相公選制を通して憲法を改正しようと意図しているが、すでに首相公選が行われているかのような雰囲気が作られた。この選挙に何ら関わっていない大衆が、自らも参加して総裁を選んだかのような錯覚に陥っている。だから、小泉首相を批判する者に対して、何か自分が批判されたように感じるのか、非難が殺到している、という。中味が何であろうと、結果的に自らの首を締めることになろうと、一度全体を巻き込む流れが作られてしまうと、この流れに逆らう者は、"反国民的"とされてしまう。これこそファシズムというべきである。

 田中外相が、外務省官僚を批判し、反官僚的言動を行っていることに対しても、大きな支持が集まっている。省内事情も殆ど知らず、韓国と朝鮮民主主義人民共和国の違いもわきまえていない素人的感覚的言動が、何か硬直した官僚制度を"改革"するかのような期待を集める。反官僚の演出もファシズム台頭の大きな要因なのである。

 "改革""維新"という流れが国民規模になると(あるいはそう思い込むと)、当の政権当事者もこの 流れに逆らえなくなる。まさにポピュリズム的行動を行わざるえなくなる。 しかし90%の国民的支持をつなぎとめうる政策が実行できなければ、あっという間に 支持率は下がる。――歴史的にファシズムの大衆的支持の維持は、民族差別意識と 他民族侵略・抑圧・支配であった。石原都知事の反中国、反共和国言辞とともに、小泉首相のポピュリズムの行先も、民族排外主義と再侵略に行く危険性がある。しかし、その方向が明らかになれば、今日のアジアの状況では、支持率は10%も維持しえないであろう。しかし、そのような危険な方向に行かせないためにも、私たちは、小泉政権の"改革"は、90%の国民にとっては決して利益にならないこと、さらに日本経済、社会を、そして労働者、民衆の生活を破壊するものとなることを、明らかにしなければならない。

2、小泉首相の所信表明演説(2001年5月7日)から

 小泉首相は、「構造改革なくして日本の再生と発展はない」という信念の下で、経済、財政、行政、社会、政治の分野における構造改革を進めることにより、「新世紀維新」とでも言うべき改革を断行する、そして「痛みを恐れず、既得権益の壁にひるまず、過去の経験にとらわれず」「恐れず、ひるまず、とらわれず」の姿勢を貫き、21世紀にふさわしい経済・社会システムを確立したい、という。しかし、橋本政権の"6大改革"とどこが違うのか。そして橋本"改革"が挫折した原因をどうとらえるのか――自民党中心の内閣である以上、少なくともこの点を明らかにすることなく、あたかもはじめて「構造改革」を打ち出したように主張するのはフェアでないし、自ら実行せんとする「改革」の保守的中味を隠蔽するものといわざるをえない。小泉内閣の第1の仕事は、森内閣の下でまとめられた「緊急経済対策」の実行だ、という。「この経済対策は、従来の需要追加型の政策から、不良債権処理や資本市場の構造改革を重視する政策へと舵取りを行うもの」というのだが、ここでも「従来の」(90年代のということであろう)経済政策が、「需要追加型」であったということ自体不正確であるし、不良債権処理や資本市場改革が行われてこなかったようにいうのも、"構造改革"をことさら強調するための虚構である。――要するに、"失われた10年"の原因は、規制緩和・行政改革が不徹底であったという、90年代、竹中平蔵氏などが繰り返し主張していたことを印象づけようとする演出である。 小泉首相は、以下の「3つの経済・財政の構造改革を断行」する、という。

 第1に、2年から3年以内に不良債権の最終処理を目指す、ということ。そして、銀行の株式保有制限と株式取得機構については、金融システムの安定化と市場メカニズムとの調和を念頭に具体策を講じる。

 第2に、21世紀の環境にふさわしい競争的な経済システムをつくること。内容的には「経済・社会の全般にわたる徹底的な規制緩和の推進」である。具体的事項としては、個人投資家の積極的市場参加促進のための税制措置等の制度改革、世界最先端のIT国家実現、科学技術創造立国を目指す戦略的研究開発投資の促進、都市再生と土地流動化――「都市再生本部」の設置。

 第3に、財政構造改革。21世紀にふさわしい簡素で効率的な政府をつくることが目的だというが、平成14年度予算では財政健全化の第一歩として国債発行を30兆円以内に抑えることを目標にすること、歳出の徹底した見直しに努めること、目標としては過去の元利払い以外の歳出は新たな借金に頼らないこと、が指摘されている。

 この他「行政の構造改革」として、国の事業の合理性、必要性の検討による「民間にできることは民間にゆだね、地方にできることは地方にゆだねる」ことを原則とした構造改革が指摘される。特殊法人、公益法人の改革、郵政三事業の公社化実現、さらに民営化検討、財源問題を含めた地方分権推進、公務員制度改革など、である。

 「社会の構造改革」としては、「日本人としての誇りと自覚を持ち、新たなる国づくりを担う人材を育てるための教育改革」の取り組み、教育基本法見直しへ国民的議論を深めること、社会保障の三本柱である年金、医療、介護については「自助と自律の精神」を基本とし、世代間の給付と負担の均衡を図り、持続可能な、安心できる制度を再構築すること、等がいわれている。

 「21世紀の外交・安全保障」に関しては、「日本の繁栄は、有効に機能してきた日米関係の上に成り立つ」という認識の下に、「日米安保体制が、より有効に機能するよう努め」る、としている。

 不良債権処理を中心とした金融安定化、国債残高(地方を含め)666兆円という財政危機の中での国債発行抑制(しかし30兆円新規発行というのは抑制ともいえないが)、そのための財政支出のきりつめ、福祉・社会保障の自己負担化――そして規制緩和・行革の徹底、その中では、労働力の流動化(労働基準法の改悪)、土地の流動化と地方への負担転嫁。90年代に推進されてきた新自由主義政策――規制緩和・行革の徹底が、小泉内閣の構造"改革"なのである。しかし、この新自由主義改革はそれ自体すでに日本経済を破綻させた政策ではなかったのか。(※1)

 小泉首相の所信表明演説には、日米関係重視、日米安保のより有効な機能を強調しているが、アメリカ経済のバブル的膨張とその崩壊の危機、そして、その危機回避のための日本の対応という側面には何ひとつふれていない。すでに日米関係の枠組み自体が、日本の経済、政治、社会の困難をもたらす重大な制約となっている。にもかかわらず、その点にはふれることなく(むしろ意図的に隠しているのか、気付かないほど取り込まれているのか)、むしろさらに日本経済を破綻に追い込む日米関係重視の政策を進めようというのである。

 そこで小泉内閣の"改革"の中味を、ブッシュ政権の対日政策との関連でとらえよう。

(※1) この点は、鎌倉孝夫『経済危機・その根源―現代金融帝国主義』(新読書社刊)を参照

3、ブッシュ政権の期待

 「米政府は小泉政権の発足を好意的に受け止め、日本の構造改革実現や日米同盟強化に向けて 連携していく方針だ。/米国の知日派の間では日本の再生に必要な処方箋はすでに出そろっており、 要はそれを実行に移す政治の決意の問題との見方が強かった。それだけに指導力発揮をめざす 小泉氏の登板には期待が高い」。これは『日本経済新聞』2001年4月27日付の記事である。 「処方箋は既に示されています。日本経済の再生を真に実現するために、今、私がなすべきことは、 決断と実行であります」。これは小泉首相の所信表明演説の一部である。アメリカ「知日派」の見方 と符合するには決して偶然ではない。

 『日経』紙は、「経済面では、ブッシュ大統領が先の森喜朗首相との会談で不良債権の早期処理 を強く要請している。新政権にも構造改革の断行を働きかけていく構えだ」としているが、不良債権 処理の断行は、まさにブッシュ政権の対日経済政策に即している。そして国債新規発行を抑え、 財政改革を行うことも、既に本誌拙稿(2001年3月号)でふれたように、米大統領補佐官 リンゼー氏が前から主張していたことである。そしてアーミテージ国務副長官の来日と例の 集団自衛権承認への要請−すでに彼はこの1月防衛庁長官になった中谷元氏と会談している。 「小泉氏が集団自衛権の問題について真剣に議論しようとしているのは日米双方の利益にかなう」 (パット・クローニン米平和研究所部長、『日経』紙、前掲)「日本近海で、日米が共同訓練して いるとき、米軍が攻撃をうけた場合、日本が何もしないということは、本当にできるだろうか」、 「集団自衛権の・・・行使ができないというなら、日本の国益にとって一番大事な日米関係の友好 をどう維持していくか」――これは4月27日の小泉首相初会見の発言である。

 4月28日からのG7ワシントン会議に先立って行われた日米財務省会談(米・オニール財務長官、 日本・塩川財務相)。すでにオニール財務長官は、「日本には3%の潜在成長率を達成する力がある」 と指摘し、3%成長をめざしてあらゆる努力をするよう求めていたが、塩川財務相が、 会談で主要銀行の抱える「破たん懸念先」以下の債権12兆7000億円を2年間で帳簿から 外す最終処理を提示し、さらにデフレ回避のため日銀が量的緩和政策に踏みきったことを説明 したことに対し、「日本の緊急経済政策や金融改革を米国は評価した」という (時事通信4月28日)。

 そしてG7。4月28日の「共同声明」では、「日本の経済活動は弱くなっていおり、 物価は引き続き下落している。金融政策は消費者物価上昇率が安定的にゼロ以上になるまで、 引き続き潤沢な流動性を供給すべきだ。中期的な回復を支えるため金融、企業部門の力強い改革 の実施が必要だ」とした。小泉内閣は、ゼロ金利・金融超緩和政策と金融機関の不良債権処理を 含む構造改革の実行を国際的に公約した。オニール米財務長官は、G7後の記者会見で 「日本の新政権の改革への努力を支持する」と語った。

 なおG7「共同声明」におけるアメリカに関するとらえ方は、「経済成長が急減速したが、 生産性上昇、市場の柔軟性など長期的な経済のファンダメンタルズはなお強い」となっているが、 「金融政策は持続的成長と物価安定の維持に貢献することをめざすべきだ。財政政策も長期的 ファンダメンタルズを強化することを目標とすべきだ」として、金利引き下げによる成長の 持続を図りながら、事実上ドル高−国外からの資金のとり込みの必要を指摘している。しかし、 日本の金融緩和、不良債権処理の断行が、アメリカへの資金のつぎ込みによるアメリカ経済の 維持のためだという分析は欠如している。

 フォーリー前駐日大使は、「日米関係は小泉首相の指導力の下、より緊密になると確信している。 /首相公選や郵政三事業の民営化などは米国が関与すべき問題ではない。ただ、集団的自衛権の 問題は平和維持活動で日本により積極的な役割を期待できるという意味では有益だと思う。 ・・・新政権がどのような法的根拠を作りあげ。日本の平和維持活動への参加を促して行くのか 大変興味深い。/首相は経済システムの再構築が重要と何度も表明しており、我々はその立場を 称賛している。銀行業界の問題解決や景気の回復にはもちろん、米国も気を配っている」とし、 「小泉政権を暫定的とする見方は適切でない」としている(『日本経済新聞』2001年5月8日)。これは、ブッシュ政権をはじめとするアメリカの体制側の小泉評価の代表的意見といえよう。

 ブッシュ政権の期待に応える"改革"の断行−それは日本の労働者・大衆にとっては何を もたらすか。小泉政権が提起する主要な政策を検討して、その点を明らかにしよう。

4、小泉政権の"改革"は何をもたらすのか

「デフレ化のデフレ政策」


 『日本経済新聞』(2001年5月12日9日)コラム欄「大機小機」は、 「新政権の構造改革への決意は勇気あるものといえる。だが、改革に出るには手遅れなほどに 状況が悪いとすれば、無謀なデフレ策の荒療治となる。新政権の構造改革は、不良債権の早期処理、 財政再建と規制緩和の三点に絞られる。いずれにしても短期的には景気を強く下押しする。 /不良債権の本当の規模は不明だが、100兆円どころか200兆円との指摘すら聞こえてくる。 /財政は真正の破たん状態といえる。景気悪化に伴う税収減の下、財政赤字の一定レベル内 への抑制には、追加的な歳出削減か増税が求められる。景気は一段と悪化し財政デフレが スパイラル化する。/時勢とは恐ろしいものである。従来の対応ではかえって事態を悪化させる との認識になると、通常では想定しえない政策に支持が集まる。社会全般でモラル低下が著しく なると、経済の論理を超えた精神論が横行しだす。ついにはデフレ下でデフレ政策を発動する 異常な状況を迎えるのである」と記している。実に明快な指摘といえよう。

 「デフレ下」−つまり需要縮小による物価下落を伴う景気悪化状況の下で、「財政デフレ」 −つまり財政支出削減と増税というデフレ政策を行う。ところがこれに多くの国民が (事情を知ってか知らずか)付和雷同してしまう。たしかに1990年代の"失われた10年" において、一方で規制緩和・行革を(とくに「労働」と「生活」に関わる分野で)推進しながら、 大金融機関、産業に対しては巨額の財政支出をつぎ込み続けてきた。ところがこれが一向に 景気回復をもたらさない上に、国債累増−財政危機を招き、さらに銀行不良債権をかえって 増加させ金融危機をもたらした。そして何よりも大金融機関・産業企業のモラルハザードをもたらし、 政財官の癒着構造を強めた。国債増発−財政支出拡大策は完全に行き詰ってしまったのである。 不況下でのさらに不況を進行させる政策を採らざるをえないと判断させたのは、 90年代の財政・金融政策自体の限界が露呈した―私はこの点を、"開き直ったケインズ主義政策 の腐食作用"と表現した(本誌3月号拙稿参照)−ことによる、といってよい。だから小泉首相は "聖域なし"の構造改革をいわざるをえないのであるが、果たして小泉政権は、大金融機関、 産業大企業につぎ込み続けてきた財政支出を削減し得るか、そして金融機関優遇政策を転換 しうるか−むしろ逆に"聖域なし"の旗の下で弱肉強食の競争がさらに吹き荒れ、弱者切り捨て、 生活破綻が広まる中で、金融大資本、産業独占体の市場支配−アメリカ多国籍企業大資本の進出 を伴って−が強まることになろう。

不良債権の処理

 小泉内閣が国際的に公約した金融機関の不良債権の処理は、これまでの貸倒引当金を積む 間接償却中心の処理ではなく、不良債権をバランスシートから落とす直接償却(オフ・バランス)、 つまり切り捨てる処理を行う、というものである。しかも貸付先企業がすでに破綻したか、 実質的に破綻して債権回収不能になっている「破綻懸念先」債権を含め、既存分は2年、 新規発生先分は3年以内に最終処理(直接償却)を行うという。

 90年代から今日まで、日本の金融機関はすでに70兆円にのぼる不良債権を処理してきたが、 ここ数年来、大手銀行の不良債権は大体20兆円前後でほとんど減っていない。 もっとも新しいデータ(2001年3月期決算)をみると、大手16行でなお不良債権残高 (要管理債権を含む)は18兆304億円ある(『日本経済新聞』2001年5月26日)。 これは前の期より1・1%増加している。大手16行は、2000年度下期に4兆3893億円 の不良債権を処理したが、貸出先経済不振・悪化、担保価値下落等が続き下期に新たに3兆3913 億円の不良債権が発生した。大手16行は、「破綻先」「破綻懸念先」を含め3年以内に最終処理を 迫られる不良債権は、11兆6642億円に達している。

 大手16行の本業利益を示す業務純利益は同3月期3兆6000億円で前期比6・3% 増加しているが、不良債権処理の負担により、東京三菱、UFJ、あさひ、大和は最終損益は赤字 となった。なお大手銀行の自己資本比率は8%を上回っているが、本年9月決算から時価会計が 適用されるために、銀行は株式の含み損の約6割を自己資本から差し引かねばならず、剰余金の 減少で配当が困難になる恐れが生じ、金融危機が深刻化する危険性がある。不良債権の直接償却 とともに、それだけ大規模なリストラに迫られると、保有株式の放出を迫られる(大手銀行の 自己資本額は22兆1535億円、保有株式総額は33兆3400億円=2001年3月末、 『日本経済新聞』同5月26日)。

 ニッセイ基礎研究所、第一生命経済研究所、ドイツ証券による不良債権最終処理の経済全体 への影響に関する試算が出されている(同5月8日)。これらの試算によると、2000年9月末 の12兆7000億円の不良債権を処理した場合に、建設、不動産、卸・小売など不況3業種を 中心に、最低で50万人、多く見積もると130万人の失業者が発生し、失業率は0・8〜 1・9%上昇、GDPも0・5〜1・4%低下する、としている。「痛みを伴う」というのは 何よりも労働者なのである。

 同時に不良債権処理の対象に「破綻懸念先」が含まれたことにより、資金回収懸念を理由に 融資を打ち切られ、あるいは貸付金を回収されて、企業倒産に追い込まれることが頻発する危険性が ある。とくに不況に苦しむ中小企業は、倒産に追い込まれよう。大企業の市場支配力が一層強まる ことは明らかである。 ところで不良債権の最終処理を即す「債権放棄の指針づくり」が金融庁主導で進められているが、 全銀協と経団連の利害対立、思惑の違いから難航している。金融庁(柳沢伯夫金融担当相)は、 「民主導」の「私的整理」を最終処理の軸にすえ、全国銀行協会はこれを受け入れた (法的整理より私的整理の方が債権回収の割合が大きいという理由で)のに対し、経団連は、債権放棄の場合、放棄を受けた企業が健全経営の企業より競争力が高まるのは不当だとし、債権放棄を受けた企業の経営責任を明確にするなどにより安易な債権放棄が行われないルールが必要だと、考えている。大企業・有力企業の経営者の集まりである経団連は、まさに弱肉強食の競争で弱体企業を淘汰すべきだ、としているのである。

財政構造改革

 小泉首相は、2002年度財政では、国債発行を30兆円以下にすることを目標にすると公約 している。「財政の中期展望」によると、この目標を達成するためには今年度当初予算に比べ 3兆円以上の歳出削減が必要となる。そこで削減の対象としてクローズアップされたのが、 公共事業関係費(2001年度9・4兆円)と地方交付税交付金(特定交付金を合わせ16・8兆円) 、そして社会保障関係費(17・6兆円)である。社会保障関係費については、 「自助と自律」を基本とするとして削減の方向を打ち出しているが、高齢化による医療費などの 自然増が大きく容易に削減しえないところから、公共事業と地方交付税交付金に焦点が 当てられている。

 公共事業関連予算で現在大きな話題になっているのが、「道路などの特定財源の見直し」 である。中でも「道路特定財源」は、揮発油税、地方道路税、石油ガス税、自動車重量税を 合わせて4兆3000億円(2001年度)に達している。これを道路建設だけに使うのではなく、 使途を弾力化して、さらには一般財源化しよう−道路建設に回す分を減らし一般財源に振り向けよう、 というのであり、"聖域破り"の目玉とされてきた。塩川財務相によれば、道路財源の新たな使途 として、道路関連の環境対策とか、光ファイバー網の整備、都市部の渋滞解消のための踏切り 立体化、高齢者向け福祉施設の建設、廃棄物処理施設の建設など、都市型公共事業に重点化 しようという方向を示している。

 しかし道路特定財源の見直しについては、道路・建設関係族等から、すでに強い反発が生じており、 特定財源見直しを行うなら道路だけだなく空港整備等についても行うべきだとか、一般財源化して 他の事業に回すのであれば、少なくとも本則税率より高い暫定税率を適用している揮発油税などの 税率を下げるなど、減税をすべきだ、との主張が生じている。さらに都市型公共事業への転換に 対しては、地方交付税交付金の見直しにもからんで、インフラ整備の遅れている地方自治体からの 強い反発が生じている。

 一方、地方交付税交付金に関しては、経済財政諮問会議(議長・小泉首相)は、6月にまとめる 経済財政運営の基本方針(骨太の方針)で、地方交付税交付金制度の実質廃止を含めた大幅な スリム化を提言する方針を固めた(5月23日)。現在、公共事業支出の拡大等景気対策に 地方財政も動員された結果、地方財政は債務を累積させており、国の地方交付税特別会計の借金は 42兆円にも達している。自治体が公共事業などを行うために地方債を発行した場合、 その償還費用の一定割合を基準財政需要額に参入して、国が交付税交付金を上積みして支給 しているが、財源不足によって財政・民間金融機関から借入れなければならなくなって いるからである。

 こうした交付金制度のあり方に対して、「人口の少ない島が巨額の資金をかけて橋を架けても、 その費用の8〜9割も国庫で面倒をみている」という批判が生じているが、同会議は「自治体が 採算性を気にせずに無駄な公共事業を手がけるなど、財政支出が拡大する要因になっている」と 判断し、受益と負担の関係を明確にするため、事業を多く手掛けるほど交付金を増額する 事業費補正を見直したり、地方債の償却費用を基準財政需要から外すなど交付金の算定方法を 大幅に見直す。人口30万人未満の自治体については、合併を通じた行財政基盤の充実が必要と 指摘し、人口が少ない市町村に交付金を割り増し支給する「段階補正」などの制度も見直し、 人口や一人当たりの税収など客観的基準に従って交付金を決めるなど簡素化していく、としている。 地方交付税交付金の見直しは、公共事業支出の見直しだけでは収まらない。同会議は社会資本整備、 社会保障、教育などの面で、国の関与を縮小し、交付金配分の算定対象の範囲を絞り込むことを 検討するという。一方では外形標準課税の充実を図ることも指摘しているけれども、 過疎地ではそれもとても困難であるし、地方分権、地方自律のかけ声の下で、福祉、 教育など住民に密着した自治体サービスが切り捨てられ、必要なサービスを行う地方公務員は 削減されるとともに、財政基盤の弱い自治体は大きな打撃を蒙り、地方間格差は拡大すること にならざるをえない。地方からの反抗は必至であろう。

「労働」の規制緩和

 規制緩和の推進に関連して、ここでは「労働」分野に限って指摘しておこう。

 厚生労働省は、労働基準法で定める期限付きの雇用契約(有期雇用契約)の見直しに 乗り出した。@最長3年となっている対象職種の拡大、A最長1年の契約期間の原則を最長3年に 延長、などを軸に検討する、という(『日本経済新聞』2001年5月22日)。有期雇用契約は 最長1年が原則であるが、99年4月施行の改正労働基準法は「高度に専門的な知識を持つ人」や 60歳以上の高齢者を企業が雇い入れる場合に限り、契約期間の上限を最長3年に延長した。 高齢者を除くと、対象となるのは、博士の学位を持つ者、公認会計士、医師、弁護士、薬剤師など 資格を持つ人に限られている。厚労省は、これを一般の販売・営業職、事務職を含め対象範囲の 拡大を検討する、という。同時に業務内容に関しても、現行法における@新製品、新技術開発・ 研究、A新事業を展開するため一定期間での完了を予定しているプロジェクトに必要な業務という 限定を緩和し、ベンチャー企業が設立時に3年の有期契約社員を採用できるようにするという 規制改革委員会の案に加え、有期契約の「原則1年」を「原則3年」に延ばす抜本的見直し策を 検討する。

 こうした「労働」の規制緩和は、95年の日経連の「新時代の日本的経営」の提言に即した ものであり、また99年10月の経団連の裁量労働制適用職種拡大、正規雇用の不安定雇用への 転換を図る有期労働契約期間・労働者派遣期間の延長の提起、在日米国商工会議長による解雇の 「妥当な根拠」の成文法化提案に即したものである。労働者を、企業の都合によって即解雇しうる、 まさに使い捨て人材化−現代版切捨て御免!だ−しようとするもの、といえよう。"痛みを伴う" のはだれなのか、そしてその下で甘い汁を吸うのはだれなのか事態は明白である。